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二、三羽――十二、三羽
に、さんば――じゅうに、さんば |
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作品ID | 1037 |
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著者 | 泉 鏡花 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「鏡花短篇集」 岩波文庫、岩波書店 1987(昭和62)年9月16日 |
入力者 | 砂場清隆 |
校正者 | 松永正敏 |
公開 / 更新 | 2000-08-30 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 30 ページ(500字/頁で計算) |
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引越しをするごとに、「雀はどうしたろう。」もう八十幾つで、耳が遠かった。――その耳を熟と澄ますようにして、目をうっとりと空を視めて、火桶にちょこんと小さくいて、「雀はどうしたろうの。」引越しをするごとに、祖母のそう呟いたことを覚えている。「祖母さん、一所に越して来ますよ。」当てずッぽに気安めを言うと、「おお、そうかの。」と目皺を深く、ほくほくと頷いた。
そのなくなった祖母は、いつも仏の御飯の残りだの、洗いながしのお飯粒を、小窓に載せて、雀を可愛がっていたのである。
私たちの一向に気のない事は――はれて雀のものがたり――そらで嵐雪の句は知っていても、今朝も囀った、と心に留めるほどではなかった。が、少からず愛惜の念を生じたのは、おなじ麹町だが、土手三番町に住った頃であった。春も深く、やがて梅雨も近かった。……庭に柿の老樹が一株。遣放しに手入れをしないから、根まわり雑草の生えた飛石の上を、ちょこちょことよりは、ふよふよと雀が一羽、羽を拡げながら歩行いていた。家内がつかつかと跣足で下りた。いけずな女で、確に小雀を認めたらしい。チチチチ、チュ、チュッ、すぐに掌の中に入った。「引掴んじゃ不可い、そっとそっと。」これが鶯か、かなりやだと、伝統的にも世間体にも、それ鳥籠をと、内にはないから買いに出る処だけれど、対手が、のりを舐める代もので、お安く扱われつけているのだから、台所の目笊でその南の縁へ先ず伏せた。――ところで、生捉って籠に入れると、一時と経たないうちに、すぐに薩摩芋を突ついたり、柿を吸ったりする、目白鳥のように早く人馴れをするのではない。雀の児は容易く餌につかぬと、祖母にも聞いて知っていたから、このまだ草にふらついて、飛べもしない、ひよわなものを、飢えさしてはならない。――きっと親雀が来て餌を飼おう。それには、縁では可恐がるだろう。……で、もとの飛石の上へ伏せ直した。
母鳥は直ぐに来て飛びついた。もう先刻から庭樹の間を、けたたましく鳴きながら、あっちへ飛び、こっちへ飛び、飛騒いでいたのであるから。
障子を開けたままで覗いているのに、仔の可愛さには、邪険な人間に対する恐怖も忘れて、目笊の周囲を二、三尺、はらはらくるくると廻って飛ぶ。ツツと笊の目へ嘴を入れたり、颯と引いて横に飛んだり、飛びながら上へ舞立ったり。そのたびに、笊の中の仔雀のあこがれようと言ったらない。あの声がキイと聞えるばかり鳴き縋って、引切れそうに胸毛を震わす。利かぬ羽を渦にして抱きつこうとするのは、おっかさんが、嘴を笊の目に、その……ツツと入れては、ツイと引く時である。
見ると、小さな餌を、虫らしい餌を、親は嘴に銜えているのである。笊の中には、乳離れをせぬ嬰児だ。火のつくように泣立てるのは道理である。ところで笊の目を潜らして、口から口へ哺めるのは――人間の方でもその計略だったのだから――い…