えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


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なまけ者と雨
なまけものとあめ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆43 雨」 作品社
1986(昭和61)年5月25日
入力者加藤恭子
校正者浦田伴俊
公開 / 更新2000-08-18 / 2014-09-17
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 降るか照るか、私は曇日を最も嫌ふ。どんよりと曇つて居られると、頭は重く、手足はだるく眼すらはつきりとあけてゐられない様な欝陶しさを感じがちだ。無論為事は手につかず、さればと云つてなまけてゐるにも息苦しい。
 それが静かに四辺を濡らして降り出して来た雨を見ると、漸く手足もそれ/″\の場所に帰つた様に身がしまつて来る。
 机に向ふもいゝし、寝ころんで新聞を繰りひろげるもよい。何にせよ、安心して事に当られる。

 雨を好むこゝろは確に無為を愛するこゝろである。為事の上に心の上に、何か企てのある時は多く雨を忌んで晴を喜ぶ。
 すべての企てに疲れたやうな心にはまつたく雨がなつかしい。一つ/\降つて来るのを仰いでゐると、いつか心はおだやかに凪いでゆく。怠けてゐるにも安心して怠けてゐられるのをおもふ。
 雨はよく季節を教へる。だから季節のかはり目ごろの雨が心にとまる。梅のころ、若葉のころ、または冬のはじめの時雨など。
 梅の花のつぼみの綻びそむるころ、消え残りの雪のうへに降る強降のあたゝかい雨がある。桜の花の散りすぎたころの草木の上に、庭石のうへに、またはわが家の屋根、うち渡す屋並の屋根に、列を乱さず降り入つてゐる雨の明るさはまことに好ましいものである。しやあ/\と降るもよく、ひつそりと草木の葉末に露を宿して降るもよい。

わが庭の竹のはやしの浅けれど降る雨見れば春は来にけり
しみじみとけふ降る雨はきさらぎの春のはじめの雨にあらずや
窓さきの暗くなりたるきさらぎの強降雨を見てなまけをり
門出づと傘ひらきつつ大雨の音しげきなかに梅の花見つ
ぬかるみの道に立ち出で大雨に傘かたむけて梅の花見つ
わがこころ澄みてすがすがし三月のこの大雨のなかを歩みつつ
しみじみと聞けば聞ゆるこほろぎは時雨るる庭に鳴きてをるなり
こほろぎの今朝鳴く聞けば時雨降る庭の落葉の色ぞおもはる
家の窓ただひとところあけおきてけふの時雨にもの読み始む
障子さし電灯ともしこの朝を部屋にこもればよき時雨かな

 など、春の初めの雨と時雨とを歌つたものは私に多くあるが、大好きの若葉の雨をばどうしたものかあまり詠んでゐない。僅かに、

うす日さす梅雨の晴間に鳴く虫の澄みぬる声は庭に起れり
雨雲のひくくわたりて庭さきの草むら青み夏むしの鳴く

 などを覚えてゐるのみである。
 夕立をば二三首歌つてゐる。

飯かしぐゆふべの煙庭に這ひてあきらけき夏の雨は降るなり
はちはちと降りはじけつつ荒庭の穂草がうへに雨は降るなり
俄雨降りしくところ庭草の高きみじかき伏しみだれたり
渋柿のくろみしげれるひともとに滝なして降る夕立の雨

 一日のうちでは朝がいゝ。朝の雨が一番心に浸む。真直ぐに降つてゐる一すぢごとの明るさのくつきりと眼にうつるは朝の雨である。
 眺むるもよいが、聴き入る雨の音もわるくない。ことに夜なかにフツと眼のさめた…

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