えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

三つの宝
みっつのたから
作品ID1126
著者芥川 竜之介
文字遣い新字新仮名
底本 「芥川龍之介全集5」 ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年2月24日
初出「良婦之友」1922(大正11)年2月
入力者j.utiyama
校正者多羅尾伴内
公開 / 更新2004-01-30 / 2014-09-18
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より



森の中。三人の盗人が宝を争っている。宝とは一飛びに千里飛ぶ長靴、着れば姿の隠れるマントル、鉄でもまっ二つに切れる剣――ただしいずれも見たところは、古道具らしい物ばかりである。
第一の盗人 そのマントルをこっちへよこせ。
第二の盗人 余計な事を云うな。その剣こそこっちへよこせ。――おや、おれの長靴を盗んだな。
第三の盗人 この長靴はおれの物じゃないか? 貴様こそおれの物を盗んだのだ。
第一の盗人 よしよし、ではこのマントルはおれが貰って置こう。
第二の盗人 こん畜生! 貴様なぞに渡してたまるものか。
第一の盗人 よくもおれを撲ったな。――おや、またおれの剣も盗んだな?
第三の盗人 何だ、このマントル泥坊め!
三人の者が大喧嘩になる。そこへ馬に跨った王子が一人、森の中の路を通りかかる。
王子 おいおい、お前たちは何をしているのだ? (馬から下りる)
第一の盗人 何、こいつが悪いのです。わたしの剣を盗んだ上、マントルさえよこせと云うものですから、――
第三の盗人 いえ、そいつが悪いのです。マントルはわたしのを盗んだのです。
第二の盗人 いえ、こいつ等は二人とも大泥坊です。これは皆わたしのものなのですから、――
第一の盗人 嘘をつけ!
第二の盗人 この大法螺吹きめ!
三人また喧嘩をしようとする。
王子 待て待て。たかが古いマントルや、穴のあいた長靴ぐらい、誰がとっても好いじゃないか?
第二の盗人 いえ、そうは行きません。このマントルは着たと思うと、姿の隠れるマントルなのです。
第一の盗人 どんなまた鉄の兜でも、この剣で切れば切れるのです。
第三の盗人 この長靴もはきさえすれば、一飛びに千里飛べるのです。
王子 なるほど、そう云う宝なら、喧嘩をするのももっともな話だ。が、それならば欲張らずに、一つずつ分ければ好いじゃないか?
第二の盗人 そんな事をしてごらんなさい。わたしの首はいつ何時、あの剣に切られるかわかりはしません。
第一の盗人 いえ、それよりも困るのは、あのマントルを着られれば、何を盗まれるか知れますまい。
第二の盗人 いえ、何を盗んだ所が、あの長靴をはかなければ、思うようには逃げられない訣です。
王子 それもなるほど一理窟だな。では物は相談だが、わたしにみんな売ってくれないか? そうすれば心配も入らないはずだから。
第一の盗人 どうだい、この殿様に売ってしまうのは?
第三の盗人 なるほど、それも好いかも知れない。
第二の盗人 ただ値段次第だな。
王子 値段は――そうだ。そのマントルの代りには、この赤いマントルをやろう、これには刺繍の縁もついている。それからその長靴の代りには、この宝石のはいった靴をやろう。この黄金細工の剣をやれば、その剣をくれても損はあるまい。どうだ、この値段では?
第二の盗人 わたしはこのマントルの代りに、そのマントルを頂きましょう。…

えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko