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惜みなく愛は奪う
おしみなくあいはうばう
作品ID1144
著者有島 武郎
文字遣い新字新仮名
底本 「惜みなく愛は奪う」 新潮文庫、新潮社
1955(昭和30)年1月25日、1968(昭和43)年12月20日25刷改版
初出「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月
入力者村田拓哉
校正者染川隆俊、土屋隆
公開 / 更新2003-08-30 / 2014-09-17
長さの目安約 160 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

Sometimes with one I love, I fill myself with rage, for fear I effuse unreturn'd love;
But now I think there is no unreturn'd love―the pay is certain, one way or another;
(I loved a certain person ardently, and my love was not return'd;
Yet out of that, I have written these songs.)
[#右寄せ]-- Walt Whitman --

I exist as I am―that is enough;
If no other in the world be aware, I sit content,
And if each and all be aware, I sit content.
One world is aware, and by far the largest to me, and that is myself;
And whether I come to my own to-day, or in ten thousand or ten million years,
I can cheerfully take it now, or with equal cheerfulness I can wait.
[#右寄せ]-- Walt Whitman --
[#改ページ]



 太初に道があったか行があったか、私はそれを知らない。然し誰がそれを知っていよう、私はそれを知りたいと希う。そして誰がそれを知りたいと希わぬだろう。けれども私はそれを考えたいとは思わない。知る事と考える事との間には埋め得ない大きな溝がある。人はよくこの溝を無視して、考えることによって知ることに達しようとはしないだろうか。私はその幻覚にはもう迷うまいと思う。知ることは出来ない。が、知ろうとは欲する。人は生れると直ちにこの「不可能」と「欲求」との間にさいなまれる。不可能であるという理由で私は欲求を抛つことが出来ない。それは私として何という我儘であろう。そして自分ながら何という可憐さであろう。
 太初の事は私の欲求をもってそれに私を結び付けることによって満足しよう。私にはとても目あてがないが、知る日の来らんことを欲求して満足しよう。
 私がこの奇異な世界に生れ出たことについては、そしてこの世界の中にあって今日まで生命を続けて来たことについては、私は明かに知っている。この認識を誇るべきにせよ、恥ずべきにせよ、私はごまかしておくことが出来ない。私は私の生命を考えてばかりはいない。確かに知っている。哲学者が知っている…

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