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本州横断 痛快徒歩旅行
ほんしゅうおうだん つうかいとほりょこう
作品ID1152
著者井沢 衣水 / 押川 春浪
文字遣い新字新仮名
底本 「〔天狗倶楽部〕怪傑伝 ――元気と正義の男たち――」 朝日ソノラマ
1993(平成5)年8月30日
初出「冐險世界 第四卷第拾參號」博文館、1911(明治44)年10月1日
入力者H.KoBaYaShi
校正者青空文庫
公開 / 更新2018-01-03 / 2018-01-01
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

前号でお別れしてから横断旅行の一隊は、炎天に照り付けられ、豪雨に洗われて、その行を続けた。峠を越すこと四、人跡絶せる深山に分け入り、峡谷の巌頭を攀じてついた日本海沿岸に出た。詳しくは全編を読め。

▲ヨタ馬車を追い越せッ

 いよいよ一行は四人と相なった。水戸以来総勢八人、八溝の天[#挿絵]も何のその、一足跳びにワッショイワッショイと飛び越えて来たものの、急に少なくなると何だか寂しい。それに春浪冒険将軍が都合で帰京したので、恰かも百千の味方を失ったような心地だ。
 西那須からは三島通庸君が栃木県令時代に俗論を排して開いた名高い三島道路。先頭に立ったのが吉岡虎髯将軍、屑屋に払ったらば三銭五厘位のボロ洋傘をつき立てて進む。後に続く木川子、それにかく申す吾輩、殿軍としては五尺六寸ヌーボー式を発揮した未醒画伯、孰れも着茣蓙を羽織って、意気揚々塩原へこそ乗りこんだり。
 太陽は猛烈に照り付ける。汗は滝のように流れるけれども、そんなことは平気の平左、グングン先に立つ馬車を追越すこと前後合計五台。はるかに馬車の影が見えてテートーと喇叭を吹けば、これ我等がためにマーチを吹くなりと称して痛快に馳け出し、忽ちにして追い越してしまう。大那須野平野を行くこと五里にして関谷へ着く。
 ここでひと息入れて、さらに進む半里ばかり、いよいよ塩原の峡谷へ差しかかる。入勝橋というを渡れば山勢、渓流いよいよ非凡奇抜、ケチ臭い滝が路の両側にあったが、名は悉く忘却仕った。ただ谷が莫迦に深かいのと巌壁を開鑿して造った桟道とは流石に宏壮、雄大の景だと思われた。大網を過ぐればやがて福渡。この辺の景色は絶景といっても差支えあるまい。ここを通り越せば、その尖端雲に入るかと思わる天狗岩が掃川の岸から聳立っているワイ。
 由来塩原という処、金持共が贅沢に夏の暑さを避けに来る土地ゆえ、街路には至る処ハイカラ男女共が手を連ねてノサ張りまわりつつあり。老人や隠居や病人共が、養生のために来ているなら結構であるが、若い身空で親爺の脛を噛り噛りロクな事もしないでブラブラ女の手を引いて歩るく、なんぞいう奴が多いから癪に触る。大手を振って、薄汚ない服を着ながら、大道せましと乗り込んだ吾等一行の有様を見て、細い目を見張ったのも痛快じゃった。
 古町の会津屋旅館へ御投宿。早速一風呂浴びて渓流を耳にしながら杯を傾け、寝に付く前四人して浴場へ志ざす。第一に飛び込んだる髯将軍、オットセイと称して浴槽の中へ仰のけのまま跳り込み、頭から、足からザブンザブン飛び込むこと十数回、危うく浴構内の土左衛門さんとならんとせしところを三人して引挙げ、ようやく事なきを得た。将軍浴場内に大の字に成ってへた張ったところ、三人して頭からガジャガジャ冷水の洗礼を見舞うとこ、たちまち家屋を震動せしむるウエーウエーの大声を連発する数回。宿屋の番頭殿びっくりして飛んで来…

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