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幽霊妻
ゆうれいづま
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「怪奇探偵小説集1」 ハルキ文庫、角川春樹事務所
1998(平成10)年5月18日
入力者大野晋
校正者はやしだかずこ
公開 / 更新2000-12-14 / 2014-09-17
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ――じゃァひとつ、すっかり初めっから申し上げましょう……いや全く、私もこの歳になるまで、ずいぶん変わった世間も見てきましたが、こんな恐ろしい目に出会ったのは天にも地にも、これが生まれて初めてなんでして……
 ――ところで、むごい目にお会いになった旦那様のお名前は、御存知でしたね……そうそう新聞に書いてありましたな。平田章次郎様とおっしゃって、当年とって四十六歳。いや新聞も、話の内容はまるで間違ったことを書いてても、あれだけは確かでしたよ。N専門学校の校長様で、真面目すぎるのが、かえってたった一つの欠点に見えるくらいの、立派な厳格な先生様でございました。……ところで、今度のことが起きあがるしばらく前に、御離縁になって、お気の毒な最期をおとげになった、問題の、夏枝様とおっしゃる奥様は、旦那様とは十二違いの三十四におなりでございましたから、この方がまた、全く新聞に書いてあった通りの御器量よしで、そのうえお気立てのやさしい、よくできたお方でした……こう申しては、なんですが、二年前にこの老耄が、学校の方の小使を馘になりました時に、お邸の方の下男にお引き立てくださったのも、後で女中から聞いたことですが、みんな奥様のお口添えがあったからでして、なんでも、旦那様はどちらかというと、口喧しいお方でしたが、奥様は、いかにも大家の娘らしく、寛大で、淑やかで、そのために御夫婦の間で口争いなぞこれっぽちも、なさったことがございませんでした。
 ……申し忘れましたが、奥様は、旦那様と違って生粋の江戸ッ子で、御実家は人形町の呉服屋さんで、かなり盛んにお店を張っていらっしゃいます……で、まあ、そんなわけで、御夫婦の間にお子様こそございませんでしたが御家庭は、まずまず穏やかに参っていたわけでございますが、ところが、それがこの頃になって、どうしたことか急に悪いことになり、とうとう奥様は御離縁という、まことに不味いお話になってしまったんでございます。
 ――いや全く、なんだって今更御離縁なぞというとんでもないお話になったのか、私共にはトンと知る由もございませんが、御実家のお父様も、二、三度おいでになって、いろいろとお話をなさったようでございましたが、なにぶん頑なな旦那様のことでお話はできず、親元へお引き取りということになったんでございます。
 ――いや、どうも、これがそもそも悪いことの始まりでした。奥様は大変お嘆きになって、お眼を真っ赤に泣きはらしながら、お父様と御一緒にお帰りになるし、旦那様は、なにか大変不機嫌で、ろくに口をお利きにならないという始末。私共もずいぶん気を揉んだんですが、何を申してもこちらはただの傭人、それに、第一なんのための御離縁か、肝心要のところがトンとわかっていないのですから、お話にもなりません。なんでも、女中の澄さんのいうところでは、なにか奥様に不行跡があっての御離縁で…

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