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とむらい機関車
とむらいきかんしゃ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「とむらい機関車」 国書刊行会
1992(平成4)年5月25日
初出「ぷろふいる」ぷろふいる社、1934(昭和9)年9月号
入力者大野晋
校正者川山隆
公開 / 更新2008-12-13 / 2014-09-21
長さの目安約 40 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ――いや、全く左様ですよ。こう時候がよくなりますと、こうして汽車の旅をするのも、大変楽ですな……時に、貴下はどちらまで?……ああ東京ですか。やはり大学も東京の方で……ああ左様ですか。いや結構な事ですな……え、私? ああ私は、ついこの先方のH市まで参ります。ええそうです。あの機関庫のあるところですよ。
 ――これでも私は、二年前までは従業員でしてな。あのH駅の機関庫に、永い間勤めていたんです……いやその、一寸訳がありましてな、退職したんですが、でも毎年、今日――つまり三月の十八日には、きまってこうしてH市まで、或る一人の可哀想な女のために、大変因果な用事で出掛けるんですよ……え? 私が何故鉄道を退職たのかですって?……いや、不思議なもんですなあ。恰度一年前の三月十八日にも、私はH市へ行く車中で、やはり貴下の様な立派な大学生と道連れになりましてな、そして貴下と同じ様に、その事に就いて訊ねて頂きましたよ……これと言うのも、きっとホトケ様のお思召なんでしょう……いや、とにかく嬉んでお話いたしましょう。全く、学生さんは、皆んなサッパリしていられるから……。
 ――私が何故鉄道を退職たか、そして何故毎年三月十八日にH市へ出掛けるか、と言いますと、実はこれには、少しばかり風変りな事情があるんですよ。でも、その事情と言うのが、見様に依っては、大変因縁咄めいておりましてな、貴下方の様に新しい学問を修められた方には、少々ムキが悪いかも知れませんが、でもまあ、車中の徒然に――とでもお思いになって、聞いて頂きましょう。
 ――話、と言うのは数年前に遡りますが、私の勤めていたH駅のあの扇形をした機関庫に……あれは普通にラウンド・ハウスと言われていますが……其処に、大勢の掛員達から「葬式機関車」と呼ばれている、黒々と燻けた、古い、大きな姿体の機関車があります。形式、番号は、D50・444号で、碾臼の様に頑固で逞しい四対の聯結主働輪の上に、まるで妊婦のオナカみたいな太った鑵を乗けその又上に茶釜の様な煙突や、福助頭の様な蒸汽貯蔵鑵を頂いた、堂々たる貨物列車用の炭水車付機関車なんです。
 ところが、妙な事にこの機関車は、H駅の機関庫に所属している沢山の機関車の中でも、ま、偶然と言うんでしょうが、一番轢殺事故をよく起す粗忽屋でして、大正十二年に川崎で製作され、直に東海道線の貨物列車用として運転に就いて以来、当時までに、どうです実に二十数件と言う轢殺事故を惹起して、いまではもう押しも押されもせぬ最大の、何んと言いますか……記録保持者? として、H機関庫に前科者の覇権を握っていると言う、なかなかやかましい代物です。
 ところでここにもうひとつ妙な事には、この因果なテンダー機関車にまことに運が悪いと言いますか、宿命とでも言うのですか、十年近くもの永い歳月に亙って、機関車が事故を起す度毎に、運転乗務…

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