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るしへる
るしへる
作品ID133
著者芥川 竜之介
文字遣い新字新仮名
底本 「芥川龍之介全集2」 ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年10月28日
初出「雄弁」1918(大正7)年11月
入力者j.utiyama
校正者かとうかおり
公開 / 更新1998-12-07 / 2014-09-17
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

天主初成世界  随造三十六神  第一鉅神  云輅斉布児(中略)  自謂其智与天主等  天主怒而貶入地獄(中略)  輅斉雖入地獄受苦  而一半魂神作魔鬼遊行世間  退人善念
―左闢第三闢裂性中艾儒略荅許大受語―



 破提宇子と云う天主教を弁難した書物のある事は、知っている人も少くあるまい。これは、元和六年、加賀の禅僧巴[#挿絵][#挿絵]なるものの著した書物である。巴[#挿絵][#挿絵]は当初南蛮寺に住した天主教徒であったが、その後何かの事情から、DS 如来を捨てて仏門に帰依する事になった。書中に云っている所から推すと、彼は老儒の学にも造詣のある、一かどの才子だったらしい。
 破提宇子の流布本は、華頂山文庫の蔵本を、明治戊辰の頃、杞憂道人鵜飼徹定の序文と共に、出版したものである。が、そのほかにも異本がない訳ではない。現に予が所蔵の古写本の如きは、流布本と内容を異にする個所が多少ある。
 中でも同書の第三段は、悪魔の起源を論じた一章であるが、流布本のそれに比して、予の蔵本では内容が遥に多い。巴[#挿絵][#挿絵]自身の目撃した悪魔の記事が、あの辛辣な弁難攻撃の間に態々引証されてあるからである。この記事が流布本に載せられていない理由は、恐らくその余りに荒唐無稽に類する所から、こう云う破邪顕正を標榜する書物の性質上、故意の脱漏を利としたからでもあろうか。
 予は以下にこの異本第三段を紹介して、聊巴[#挿絵][#挿絵]の前に姿を現した、日本の Diabolus を一瞥しようと思う。なお巴[#挿絵][#挿絵]に関して、詳細を知りたい人は、新村博士の巴[#挿絵][#挿絵]に関する論文を一読するが好い。



 提宇子のいわく、DS は「すひりつあるすすたんしや」とて、無色無形の実体にて、間に髪を入れず、天地いつくにも充満して在ませども、別して威光を顕し善人に楽を与え玉わんために「はらいそ」とて極楽世界を諸天の上に作り玉う。その始人間よりも前に、安助(天使)とて無量無数の天人を造り、いまだ尊体を顕し玉わず。上一人の位を望むべからずとの天戒を定め玉い、この天戒を守らばその功徳に依って、DS の尊体を拝し、不退の楽を極むべし。もしまた破戒せば「いんへるの」とて、衆苦充満の地獄に堕し、毒寒毒熱の苦難を与うべしとの義なりしに、造られ奉って未だ一刻をも経ざるに、即ち無量の安助の中に「るしへる」と云える安助、己が善に誇って我は是 DS なり、我を拝せよと勧めしに、かの無量の安助の中、三分の一は「るしへる」に同意し、多分は与せず、ここにおいて DS「るしへる」を初とし、彼に与せし三分の一の安助をば下界へ追い下し、「いんへるの」に堕せしめ給う。即安助高慢の科に依って、「じゃぼ」とて天狗と成りたるものなり。
 破していわく、汝提宇子、この段を説く事、ひとえに自縄自縛なり、まず DS …

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