えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

山崎合戦
やまざきのかっせん
作品ID1364
著者菊池 寛
文字遣い新字新仮名
底本 「日本合戦譚」 文春文庫、文芸春秋
1987(昭和62)年2月10日 
入力者大野晋、Juki、網迫
校正者土屋隆
公開 / 更新2009-10-24 / 2014-09-21
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より

 明智光秀は、信長の将校中、第一のインテリだった。学問もあり、武道も心得ている。戦術も上手だし、築城術にも通じている。そして、武将としての品位と体面とを保つ事を心がけている。
 それだけに、勿体ぶったもっともらしい顔をして居り、偽善家らしくも見えたのであろう。リアリストで、率直を愛する信長は光秀がすまし過ぎているので、「おい! すますない!」と云って時々は肩の一つもつつきたくなるような男であったのであろう。
 神経質で陰気で、条理も心得て居り、信長のやり方を腹の中では、充分批判しながら、しかしすまして、勿体ぶった顔をしている光秀は、信長には何となく、気になる、虫の好かない所があったのだろう。
 と、云ってガッチリしているのだから、役には立つし、軍役や雑役に使ってソツがないので、だんだん重用しながらも、信長としては、ときどきそのアラを探して、やっつけて見たくなるような男であったに違いない。
 信長は、人を褒賞したり抜擢したりする点で、決して物吝しみする男ではないが、しかしそのあまりに率直な自信のある行動が自分の知らぬ裡に、人の恨みを買うように出来ている。浅井長政なと、可なり優遇して娘婿にしたのにも拘わらず、朝倉征伐に行ったときその背後で背かれた。例の金ヶ崎の退陣で、さんざんな目に会った。
「浅井が不足を感ずるわけはないが」
 と云って、信長は浅井の反逆の報を容易に信じなかった。しかし、自分が恨まれないつもりで、恨まれている所に、信長の性格的欠陥があったのであろう。
 荒木村重なども、やはりそうである。村重と始めて会った時、壮士なら之を喰らえと云って、剣尖に餅か何かをさして、之をさしつけた。村重平然として、口ずから喰ったと云うが、後で考えればひどい事をする奴だと思ったに違いない。村重なども、相当重用しながら背かれている。松永久秀などもそうである。
 光秀反逆の原因は、丹波の波多野兄弟を、光秀が、命は請け合ったと云って降服帰順させたのを、信長が殺してしまった事。家康が安土に来るとき、光秀に饗応の役をさせた所、あまりに鄭重に過ぎたので信長が怒って途中で止めさせた事。森蘭丸が信長に近江にある亡父の旧領がほしいと哀願したところ、三年待てと云った。ところがその旧領は、現在光秀の所領なので、三年の裡には、自分の位置が危いことを知って、反逆の意を堅めたと云う説。
 その他いろいろあるが、三年待て云々の話は多分嘘だろう。此の頃の信長麾下の武将など、信長勢力の発展と共に、その所領は常にいろいろ変更されているのだから、近江で呉れたものを中国辺で呉れるものと思えば、心配することはないのである。とかく蘭丸と光秀とをいろいろからませている話は、若年にして本能寺で死んだ蘭丸の短生涯を小説化するため、大抵は仕組まれたもので、信長が蘭丸に光秀を折檻させたなども多分嘘である。戦国時代の武将が主君…

えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko