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出家とその弟子
しゅっけとそのでし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「出家とその弟子」 岩波文庫、岩波書店
1927(昭和2)年7月1日
初出「生命の川 第一巻第二号~第二巻第二号」1916(大正5)年11月16日~1917(大正6)年3月5日
入力者土屋隆
校正者松永正敏
公開 / 更新2006-11-01 / 2014-09-18
長さの目安約 249 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

この戯曲を信心深きわが叔母上にささぐ
[#改ページ]

極重悪人唯称仏。 我亦在彼摂取中。

煩悩障眼雖不見。 大悲無倦常照我。

         (正信念仏偈)
[#改丁]

出家とその弟子
[#改丁]

    序曲

      死ぬるもの

       ――ある日のまぼろし――

人間 (地上をあゆみつつ)わしは産まれた。そして太陽の光を浴び、大気を呼吸して生きている。ほんとに私は生きている。見よ。あのいい色の弓なりの空を。そしてわしのこの素足がしっかりと踏みしめている黒土を。はえしげる草木、飛び回る禽獣、さては女のめでたさ、子供の愛らしさ、あゝわしは生きたい生きたい。(間)わしはきょうまでさまざまの悲しみを知って来た。しかし悲しめば悲しむだけこの世が好きになる。あゝ不思議な世界よ。わしはお前に執着する。愛すべき娑婆よ、わしは煩悩の林に遊びたい。千年も万年も生きていたい。いつまでも。いつまでも。
顔蔽いせる者 (あらわる)お前は何者じゃ。
人間 私は人間でございます。
顔蔽いせる者 では「死ぬるもの」じゃな。
人間 私は生きています。私の知っているのはこれきりです。
顔蔽いせる者 お前はまたごまかしたな。
人間 私の父は死にました。父の父も。おゝ私の愛する隣人の多くも死にました。しかし私が死ぬるとは思われません。
顔蔽いせる者 お前は甘えているな。
人間 (やや躊躇して後)わたしは恐れてはいます。もしや死ぬのではなかろうかと。……あゝあなたは私の心を見抜きましたな。ほんとうは私も死ぬのだろうと思っているのです。私の祖先の知恵ある長老たちも昔から自分らのことをモータルと呼んでいますから。
顔蔽いせる者 それはほんとうじゃ。禽獣草木魚介の族と同じく死ぬるものじゃ。
人間 あなたはどなたでございますか。その威力ある言葉を出すあなたは?
顔蔽いせる者 わしは死なざるものに仕える臣じゃ。お前はわしを知らぬかの。
人間 知っているような気もするのですが、……いゝえ、やはり知りません。
顔蔽いせる者 お前はたびたびわしの名を呼ぶようじゃ。ことにこのごろはあまりたびたびなので煩わしいほどじゃ。
人間 ではもしやあなたは? おそれながらお顔蔽いをとって一度だけどうぞお顔をお見せくださいませ。
顔蔽いせる者 わしはモータルには顔を見せぬものじゃ。死ぬるものには。
人間 それはなぜでございます。
顔蔽いせる者 モータルを見るとわしは恥ずかしくて死ぬるからじゃ。
人間 死ぬる者という言葉には軽蔑の意味が含まっているように聞こえます。
顔蔽いせる者 死ぬのは罪があるからじゃ。罪のないものはとこしえに生きるのじゃ。「死ぬる者」とは「罪ある者」と同じことじゃ。
人間 では人間は皆罪人だとおっしゃるのでございますか。
顔蔽いせる者 皆悪人じゃ。罪の価は死じゃ。(消ゆ)
人間 今…

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