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面白き二個の広告
おもしろきにこのこうこく
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の名随筆 別巻23 広告」 作品社
1993(平成5)年1月25日
入力者もりみつじゅんじ
校正者渥美浩子
公開 / 更新2001-02-01 / 2014-09-17
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




 吾人はこのごろの新聞紙上において実に面白き二個の広告を見当たりたり。一は「白縮緬兵児帯」と題し、一は「徳用飯殖焚法」と題せり。
「白縮緬兵児帯」と題するものは、「桐生特産優美観光織」と称せるより見れば、いわゆる観光縮緬のことなるべく、それを帯一筋につき一円二〇銭より一円七〇銭までの間にて売るものなるが、「代価普通縮緬の三分の一にも満たず、しかも地合光沢等すべて一見毫も劣らず」とて、「ゆえに官吏学生はもちろん、紳士粋人方が楽着用として実に徳用他に比なし」と言えり。少なからざる広告料を投じてかくのごとき広告をなす者あるは、必ずその需要あるべきを知るがゆえなり。されば官吏、学生、紳士、粋人と称せらるる(あるいは自ら称する)人々の間に、三分の一の実費をもって一見毫も他に劣らざる風体をなさんとするの欲望あることを察しうべし。彼らは実力をもって地位を進めんとするほどの根気もなし、さればとて、現在実力相応の地位に安んじてその分を守るほどの正直もなし、ゆえに、労力を要せず、資本を要せずして、ただ何とか一見他に劣らざる様の方法をのみ求むるなり。堅実なる大欲望は彼らの有しうるところにあらず、彼らの有するところはただ浮薄なる小羨望なり。
 次に「徳用飯殖焚法」と題するものは、「ある作用によりて飯を四割以上増殖する焚き方なり」とて、「米価大騰貴の際、各戸一日も欠くべからざる発明」と言えり。かくのごとき広告をなす者あるは、必ずまたこれに飛びつく者の多かるべきを知るがゆえなり。されば、世の多くの人は、尋常一様の方法によらずして、何らか不可思議なるある作用により、たちまち生活の困難を減ぜんとするの欲望あることを察すべし。彼らは勤勉して今より多くの金を得んとするよりも、節倹して無益の冗費を省かんとするよりも、何らの労苦なしに偶然ある作用によりて安楽を得んことを求むるなり。彼らの欲するところは僥倖なり。彼らの待つところはたなから落ち来たるぼたもちなり。
 吾人が見当たりたる二個の面白き広告は、その実、僥倖心と羨望心との反映なること上述のごとし。今の社会は実にかくのごとき僥倖心と羨望心とをもって満たされおるなり。しかれどもこれ必ずしも個人の浮薄と惰弱とより来たると言うべからず。飯殖焚法に飛びつき、観光縮緬の兵児帯を買う人々は、もとより吾人の尊敬しえざるところなれども、また一方には、それらの人々を駆っておのずからここに至らしむる者あるを見ざるべからず。今の階級制度、資本制度、すなわちこれなり。階級制度、資本制度の今の社会においては、実力必ずしも地位を作るゆえんにあらず。勤勉必ずしも富を得る方法にあらず。ここにおいて失望あり、怠惰あり。怠惰と失望とはすなわち僥倖心と羨望心とを呼び起こすゆえんなり。



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