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旗本退屈男
はたもとたいくつおとこ
副題07 第七話 仙台に現れた退屈男
07 だいななわ せんだいにあらわれたたいくつおとこ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「旗本退屈男」 春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年7月20日新装第1刷
入力者tatsuki
校正者大野晋
公開 / 更新2001-05-21 / 2014-09-17
長さの目安約 40 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 ――第七話です
 三十五反の帆を張りあげて行く仙台石の巻とは、必ずしも唄空事の誇張ではない。ここはその磯節にまでも歌詞滑らかに豪勢さを謳われた、関東百三十八大名の旗頭、奥羽五十四郡をわが庭に、今ぞ栄華威勢を世に誇る仙台伊達の青葉城下です。出船入り船帆影も繁き石の巻からそのお城下までへは、陸前浜街道を一本道に原ノ町口へ抜けて丁度十三里――まさかと思ったのに、およそ退屈男程気まぐれな風来坊も稀でした。身延から江尻の港へふらふらと降りて見たところ、三十五反の真帆張りあげた奥地通いの千石船が、ギイギイと帆綱を渚の風に鳴らしていたので、つい何とはなしに乗ったのが持病の退屈払い。石の巻に来て見るとこれがまた、そぞろ旅情もわびしく、なかなかにわるくないのです。ないところから、のっしのっしと浜街道を十三里ひと日にのし切って、群なす旅人の影に交りながら、ふらりふらりとお城下目ざして原ノ町口に姿を現しました。
 陸奥路は丁度夏草盛り。
 しかし陸奥ゆえに、夏草の上を掠めて夕陽を縫いながら吹き渡る風には、すでに荒涼として秋の心がありました。――背に吹くや五十四郡の秋の風、と、のちの人に詠まれた、その秋の風です。
 城下に這入って、釈迦堂脇から二十人町、名掛町と通り過ぎてしまえば、独眼竜伊達の政宗が世にありし日、恐るべきその片眼を以て奥地のこの一角から、雄心勃々として天下の風雲をのぞみつつ、遙かに日之本六十余州を睥睨していたと伝えられる、不落難攻の青葉城は、その天守までがひと目でした。町もまたここから急に広く、繁華もまた城下第一と見え、随って旅人の群も虫の灯に集るごとくに自ずと集うらしく、両側は殆んど軒並と言っていい程の旅籠屋ばかりです。
 だから旅籠の客引きが、ここを先途と客を呼ぶのに不思議はないが、それにしてもその騒々しさと言うものはない。
「いかがでござります。エエいかがでござります。手前のところは当城下第一の旅籠屋でござります。夜具は上等、お泊り貸は格安、いかがでござります。エエいかがでござります」
「いえ、わたくしの方も勉強第一の旅籠でござります。座スクはツグの間付きの離れ造り、お米は秋田荘内の飛び切り上等、御菜も二ノ膳つきでござります。それで御泊り賃はたった百文、いかがでござります。エエいかがでござります」
「いえいえ、同ズことならわたくス共の方がよろしゅうござります。揉み療治按摩は定雇い、給仕の女は痩せたの肥ったのお好み次第の別嬪ばかり、物は試スにござりますゆえ、いかがでござります。欺されたと思うて御泊りなされませ。エエいかがでござります」
 だが、少し奇怪でした。ほかの旅人達には、歩行も出来ぬ程客引き共がつけ廻って、うるさく呼びかけているのに、どうしたことかわが早乙女主水之介のところへは、ひとりも寄って来ないのです。客としては元より上乗、身分素姓は言うまでも…

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