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装釘に就て
そうていについて
副題『春』と『家』及び其他
はるといえおよびそのほか
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆 別巻87 装丁」 作品社
1998(平成10)年5月25日
入力者加藤恭子
校正者菅野朋子
公開 / 更新2000-10-30 / 2014-09-17
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 近頃出した『千曲川のスケツチ』は装釘としては、宜い案です。国の方で父の碑を立てるに就て歌抔を集めた遺稿を、東京で印刷して欲しいと云ふので、有島さんに描いて貰つた表紙は赤ちやけた黒いラシャ紙に黒で印刷した素朴で強い感を与へた。
 私の従来作つた書物の中では、私では、有島さんに願つた、『家』の中の挿画の「台所」と「座敷」とである。家と云へば広漠なものだから、それを表はすには、「台所」や静物が宜からうと云ふので、台所に静物を置いた物にした。ランプを置いてある「座敷」の方は版にし易い様な油で描いて貰つた。田中さんの所で三度許り版を色々遣つて見たが、どうも巧く行かないといふので、有島さんに願つて、青い色にセピアを入れたのを、赤い色にセピアを混じて、それを初版の時に使つた。その初版の方は田中さんの方で紛失したが、再版の時からは反つて私の思ふ様に出来たと思ふ。
 私の書物に対しての考へを、極く大体に言へば、成る可く、かう貧しい、余り余裕のない人にも読んで貰ひたいといふ気持があるから、装釘などは質素にして、陰では色々の手数を掛けても、形に成る時は、成る可く簡単に、金の掛らぬ様な、皆の好みに合ふ様なものを造る。私の本は大抵仮表紙で、クロースの本などは一冊もない。一つは紙の表紙は色々変化も有つて面白いと思ふ。
 古い所では、一番初め『若菜集』を出した時は中村不折君が、骨を折つて描いて呉れた。自分でも注文もしたが、不折君の自分の考へも入れて描かうと、朝なんぞ写生に出掛けて呉れたりした。中村さんの装釘は『若菜集』で、大分知られて来た様な形も有つた。中村さんは自分で挿絵も描いたが、その時分「日本新聞」にも描いて居たかと思ふが、本の装釘は私の詩集の処女作が、初めてで、不折君も処女作で有つたらうと思ふ。
『一葉舟』を次に出した、詩と散文を集めた物であれも中村さんに頼んだ、字なんぞも自分で書いて呉れた。
 三番目の『夏草』は以前の美術院派の方々に御願をしたが、主に下村観山さんが担当して呉れた。菱田春草さんも「農夫」の画を描いて呉れた。横山大観さん、山田敬中さん抔も描いて呉れた。何でも当時は観山さんが谷中の寺で、描いて居られた時分で、淡黄色の地に、蜻蛉と蛍草を白で抜いた。表紙は全く下村さんの意匠である。あの「夏くさ」と云ふ小文字なども大変古い物から抜いた物である。
『落梅集』は、中村さんにお願ひして、矢張骨折つて、古い瓦に梅の花をあしらつた、表紙でした。
 私は信州で小説を書く外に、外の四冊の詩集を一冊に纏めたいと思つた。其時から以前明治学院時代から知つて居た、和田英作さんが、丁度西洋から帰つたので、和田氏に頼んで、白に藍を配して斜に曲線の併行した図案を描いて貰つて、表紙にし、中に四枚だけ挿画を描いて貰つたが、殊に『若菜集』の中に挿んだ、柔らかい春の私語とでも云ふ様な画は、大変宜く出来たが…

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