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黄金鳥
おうごんちょう
作品ID1529
著者鈴木 三重吉
文字遣い新字新仮名
底本 「鈴木三重吉童話集」 岩波文庫、岩波書店
1996(平成8)年11月18日
初出「世界童話集 第一編『黄金鳥』」春陽堂、1917(大正6)年4月
入力者土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2006-05-23 / 2014-09-18
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

       一

 貧乏な百姓の夫婦がいました。二人は子どもがたくさんあって、苦しいところへ、また一人、男の子が生れました。
 けれども、そんなふうに家がひどく貧乏だものですから、人がいやがって、だれもその子の名附親になってくれるものがありませんでした。
 夫婦はどうしたらいいかと、こまっていました。すると、或朝、一人のよぼよぼの乞食のじいさんが、ものをもらいに来ました。夫婦は、かわいそうだと思って、じぶんたちの食べるものを分けてやりました。
 乞食のじいさんは、二人が、へんにしおしおしているのを見て、どうしたわけかと聞きました。二人は、生れた子どもの名附親になってくれる人がないから困っているところだと話しました。じいさんはそれを聞いて、
「では私がなって上げましょう。私だからと言って、さきでお悔みになるようなことは決してありません。」と親切に言ってくれました。夫婦は、もう乞食でも何でもかまわないと思って、一しょにお寺へいってもらいました。
 坊さんは、じいさんに子どもの名前を聞きました。じいさんは名前の相談をしておくのをすっかり忘れていました。
「そうそう。名前がまだきめてありません。ウイリイとつけましょう。」と、じいさんはでたらめにこう言いました。坊さんは帳面へ、そのまま「ウイリイ」とかきつけました。お百姓の夫婦は、いい名前をつけてもらったと言ってよろこんで、じいさんを家へつれて帰って、出来るだけの御ちそうをこしらえて、名づけのお祝いをしました。
 じいさんは別れるときに、ポケットから小さな、さびた鍵を一つ取り出して、
「これをウイリイさんが十四になるまで、しまっておいてお上げなさい。十四になったら、私がいいものをお祝いに上げます。それへこの鍵がちゃんとはまるのですから。」と言いました。じいさんはそれっきり二度と村へは来ませんでした。
 ウイリイは丈夫に大きくなりました。それに大へんすなおな子で、ちっとも手がかかりませんでした。
 ふた親は乞食のじいさんがおいていった鍵を、一こう大事にしないで、そこいらへ、ほうり出しておきました。それをウイリイが玩具にして、しまいにどこかへなくして来ました。
 ウイリイはだんだんに、力の強い大きな子になって、父親の畠仕事を手伝いました。
 或ときウイリイが、こやしを車につんでいますと、その中から、まっ赤にさびついた、小さな鍵が出て来ました。ウイリイはそれを母親に見せました。それは、先に乞食のじいさんがおいて行った鍵でした。母親はじいさんの言ったことを思い出して、はじめて、ウイリイに話をして聞かせました。それからは、ウイリイはその鍵をいつもポケットにしまって、大事に持っていました。
 そのうちに、ウイリイの十四の誕生が来ました。ウイリイは、その朝早く起きて窓の外を見ますと、家の戸口のまん前に、昨日までそんなものは何にもな…

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