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佐竹の原へ大仏をこしらえたはなし
さたけのはらへだいぶつをこしらえたはなし
作品ID1545
著者高村 光雲
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の名随筆46 仏」 作品社
1986(昭和61)年8月25日
入力者加藤恭子
校正者菅野朋子
公開 / 更新2000-10-30 / 2014-09-17
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私の友達に高橋定次郎氏という人がありました。この人は前にも話しました通り、高橋鳳雲の息子さんで、その頃は鉄筆で筒を刻って職業としていました。上野広小路の山崎(油屋)の横を湯島の男坂の方へ曲がって中ほど(今は黒門町か)に住んでいました。この人が常に私の宅へ遊びに来ている。それから、もう一人田中増次郎という蒔絵師がありました。これは男坂寄りの方に住んでいる。どことなく顔の容子が狐に似ているとかでこんこんさんと綽名をされた人で、変り物でありましたが、この人も定次郎氏と一緒に朝夕遊びに来ていました。お互いに職業は違いますが、共に仕事には熱心で話もよく合いました。ところで、もう一人、矢張り高橋氏の隣に住んでる人で野見長次という人がありました。これは肥後熊本の人で、店は道具商で、果物の標本を作っていました。枇杷、桃、柿などを張子でこしらえ、それに実物そっくりの彩色をしたもので一寸盛籠に入れて置物などにもなる。縁日などに出して相当売れていました。この野見氏の親父さんという人は、もと、熊本時代には興行物に手を出して味を知っている人でありましたから、長次氏もそういうことに気もあった。この人も前の両氏と仲よしで一緒に私の宅へ遊びに来て、互いに物をこしらえる職業でありますから、話も合って研究しあうという風でありました。

 ある日、また、四人が集っていますと、相変らず仕事場の前をぞろぞろ人が通る。私達の話は彼の佐竹の原の噂に移っていました。
「佐竹の原も評判だけで、行ってみると、からつまらないね。何も見るものがないじゃありませんか。」
「そうですよ。あれじゃ仕様がない。なにか少しこれという見世物が一つ位あってもよさそうですね。なにかこしらえたらどうでしょう。うまくやれば儲かりますぜ」
「儲る儲らんはとに角、人を呼ぶのに、あんなことでは余り智慧がない。なにか一つアッといわせるようなものをこしらえてみたいもんだね」
「高村さん、何か面白い思いつきはありませんか」
 というような話になりました。
「左様さ……これといって面白い思いつきもありませんが、何か一つあってもよさそうですね。原の中へこしらえるものとなると、高値なものではいけないが、といってちっぽけな見てくれのないものではなおさらいけない……どうでしょう。一つ大きな大仏さんでもこしらえては……」
 笑談半分に私はいい出しました。皆が妙な顔をして私の顔を見ているのは、一体、大仏をこしらえてどうするのかという顔つきです。で、私は勢い大仏の趣向を説明してみねばなりません。
「大きな大仏をこしらえるというのは、大仏を作って見物を胎内へ入れる趣向なんです。どのみち何をやるにしても小屋をこしらえなくてはならないが、その小屋を大仏の形でこしらえて、大仏を招きに使うというのが思いつきなんです。大仏の姿が屋根にもかこいにもなるが、内側では胎内潜り…

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