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悶悶日記
もんもんにっき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「太宰治全集10」 ちくま文庫、筑摩書房
1989(平成元)年6月27日
初出「文芸 第四巻第六号」1936(昭和11)年6月1日
入力者土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2005-04-23 / 2016-07-12
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 月 日。
 郵便受箱に、生きている蛇を投げ入れていった人がある。憤怒。日に二十度、わが家の郵便受箱を覗き込む売れない作家を、嘲っている人の為せる仕業にちがいない。気色あしくなり、終日、臥床。

 月 日。
 苦悩を売物にするな、と知人よりの書簡あり。

 月 日。
 工合いわるし。血痰しきり。ふるさとへ告げやれども、信じて呉れない様子である。
 庭の隅、桃の花が咲いた。

 月 日。
 百五十万の遺産があったという。いまは、いくらあるか、かいもく、知れず。八年前、除籍された。実兄の情に依り、きょうまで生きて来た。これから、どうする? 自分で生活費を稼ごうなど、ゆめにも思うたことなし。このままなら、死ぬるよりほかに路がない。この日、濁ったことをしたので、ざまを見ろ、文章のきたなさ下手くそ。
 檀一雄氏来訪。檀氏より四十円を借りる。

 月 日。
 短篇集「晩年」の校正。この短篇集でお仕舞いになるのではないかしらと、ふと思う。それにきまっている。

 月 日。
 この一年間、私に就いての悪口を言わなかった人は、三人? もっと少ない? まさか?

 月 日。
 姉の手紙。
「只今、金二十円送りましたから受け取って下さい。何時も御金のさいそくで私もほんとに困って居ります。母にも言うにゆわれないし、私の所からばかりなのですから、ほんとうにこまって居ります。母も金の方は自由でないのです。(中略。)御金は粗末にせずにしんぼうして使わないといけません。今では少しでも雑誌社の方から、もらって居るでしょう。あまり、人をあてにせずに一所けんめいしんぼうしなさい。何でも気をつけてやりなさい。からだに気をつけて、友だちにあまり附き合ない様にしたほうが良いでしょう。皆に少しでも安心させる様にしなさい。(後略。)」

 月 日。
 終日、うつら、うつら。不眠が、はじまった。二夜。今宵、ねむらなければ、三夜。

 月 日。
 あかつき、医師のもとへ行く細道。きっと田中氏の歌を思い出す。このみちを泣きつつわれの行きしこと、わが忘れなば誰か知るらむ。医師に強要して、モルヒネを用う。
 ひるさがり眼がさめて、青葉のひかり、心もとなく、かなしかった。丈夫になろうと思いました。

 月 日。
 恥かしくて恥かしくてたまらぬことの、そのまんまんなかを、家人は、むぞうさに、言い刺した。飛びあがった。下駄はいて線路! 一瞬間、仁王立ち。七輪蹴った。バケツ蹴飛ばした。四畳半に来て、鉄びん障子に。障子のガラスが音たてた。ちゃぶ台蹴った。壁に醤油。茶わんと皿。私の身がわりになったのだ。これだけ、こわさなければ、私は生きて居れなかった。後悔なし。

 月 日。
 五尺七寸の毛むくじゃら。含羞のために死す。そんな文句を思い浮べ、ひとりでくすくす笑った。

 月 日。
 山岸外史氏来訪。四面そ歌だね、と私が言うと、…

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