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胚胎
はいたい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第二十八巻(習作一)」 新日本出版社
1981(昭和56)年11月25日初版
入力者柴田卓治
校正者土屋隆
公開 / 更新2009-11-28 / 2014-09-21
長さの目安約 56 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

    時代
  中古、A.D. 十一世紀頃――A.D. 1077―A.D. 1095

    人物
  グレゴリオ七世 ローマ法王
  ヘンリー四世  ドイツ帝
  老人   ヘンリー四世の守役を勤めた人九十以上の年になって居る。
  第一の女
  第二の女
  第三の女
  非番の老近侍
  帝の供人同宮人数多
  法王の供人数多及び弟子達
  イタリー、サレルノの農夫の老夫婦
  人民数多、及び不信心な遊び者

    第一幕

     第一場

    場所
  ヘンリー王の城内の裏手

景 近侍達の住んで居る長屋体の建物の中央にある広場。
かなり間をおいて石の据置の腰掛が三つあって足の所に苔が生えて居る。
広場には一本も木がなく正面には三つほどの入口が見えて居て中央の一番大きい入口の左右の二本柱に王家の紋章が彫られて居る。
しおれかかった赤い花が一っかたまりその下に植えられて居る。
家の壁と石造の四角な煙突に這いかかったつたが赤く光って日光からそむいた側の屋根は極く暗くてそうでない方は気持の悪い様な変な色に輝いて居る。
木の彫刻の沢山ある小窓は開いたのと閉されたのと半々位で一つのまどには小鳥の籠が吊してある。広場をよぎって左右に道がついて居る。
一体に秋の中頃の黄色っぽい日差しで四方には何の声もしない。
幕が上ると中央から少し下手によった所に置いてある腰掛にたった一人第一の女が何をするともなしにつたの赤く光るのを見て居る。
かなり富んだらしい顔つきをして大変に目の大きい女。
深紅の着物のあさい襞を正しくつけたのをきて、白い頭巾をぴったりとつけて指にすっかり指環をはめて居る。
なかにも右の手の中指のはことに目立つ位まっさおでうす気味悪いほど大きい玉をつけた指環。
すぐ下手から第二第三の女と非番の老近侍が出て来る。
女達二人は極く注意した歩き振りでどんな時でも少し体をうかす様につまさきで歩く。
老近侍は大股にしかし気取った物ごし。
第二の女は深緑の着物と同じ形(第一の女と)の頭巾をつけ髪をかまっかく巻いて頭巾のそとに食み出させてよく光る耳飾りをする。
第三の女、第一の女と同じ色に縦に五本ほど太い組紐で飾りのついたのを着て頭巾は後の方のパッと開いたのをつける。
非番の老近侍は茶の上着を着て白と黒の縞のキッチリのズボン白い飾りのついた短靴をはいて飾りのついた剣をつるす。ふちのない上着と同色の帽子についた王家の紋章が動く毎に光る。
第二の女の声は陽気で、第一第三の女はふくみ声でゆっくりと口をきく人。
第二の女 まあ! ここにいらっしたんでございますの?
 おさがしして居たんでございますよ。
第一の女 あらそうでございましたか。
 大変お気の毒様な事を致しました。
 私さっきからここに居たんでございますの。
 あんまり静かな日でございますものねえ家の中に居…

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