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砂遊場からの同志
すなあそびばからのどうし
作品ID15971
副題――ソヴェト同盟の共学について――
――ソヴェトどうめいのきょうがくについて――
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第三十巻」 新日本出版社
1986(昭和61)年3月20日
初出「教育」(「教育科学 第四冊」附録)岩波講座、岩波書店、1932(昭和7)年1月15日
入力者柴田卓治
校正者土屋隆
公開 / 更新2007-12-27 / 2014-09-21
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

        托児所からはじまる

 モスク[#挿絵]はクレムリとモスク[#挿絵]河とをかこんで環状にひろがった都会だ。
 内側の並木道と外側の並木道と二かわの古い菩提樹並木が市街をとりまき、鉱夫の帽子についている照明燈みたいな※[#丸A大文字、122-6]※[#丸B大文字、122-6]と円い標を屋根につけた電車が、冬は真白く氷花に覆われた並木道に青いスパークを散らしながら走る。
 夕方、五時というと冬のモスク[#挿絵]ではもう宵だ。アーク燈が凍った並木道の上にともる。この刻限並木道は勤めがえりの通行人で一杯だ。
 鞁鳥打帽の下で外套の襟を深く立て、物がつまりすぎてパチンも満足にかからない書類入鞄を小脇にかかえ、わき目もふらずポケットへ手をつっこんで歩いて行く男や女――これは至極ありふれた文明国の恰好だ。が、ひとつ目につく情景がある。いかにも役所や工場から今退けて来たという風情の男が、又は女が、自分の後へ橇にのっかった小さい子供をひっぱり、何か楽しそうにその子と喋ったり笑ったりしながら、ゆっくり人出の間をやって来る。
 それが決して、一組や二組のことじゃあない。並木道がひろくなって、片隅に子供たちの橇遊び場が出来ているようなところへ来かかろうものなら、子供等がおふくろや父親を素通りはさせない。親は押し役だ。子供たちは歓声をあげ、アーク燈と凍った雪の上で仔熊のようにころがりまわる。親たちは、小脇に勤め先からもってかえった書類入鞄をはさみながら、やっぱり同じように陽気な顔つきで立って、お伴をつとめている。――
 これこそ、独特なソヴェト同盟風景だ。親子は托児所からの帰りなのだ。
 産業別労働組合が共同資本で建てている新しい共同住宅には、きっとその第一階に托児所がある。けれども元からある家のどれにも托児所が附属しているとはきまっていないから、工場へつとめる夫婦は小さい子を工場の托児所へ、役所勤めの男女は区の托児所へ、いずれも朝勤めに出しなに、抱いたり手をひいたりして連れて行く。
 八時間働いて退けしなに親たちは托児所へより、それからめいめいの坊やと帰途を充分楽しみながら家へかえってさて夕飯ということになっているのだ。
 話の例としてひとつ「赤い糸紡織工場」の托児所をのぞいて見よう。(ここには七百人からの婦人労働者がいる。)
 工場を出て、鋪道を半丁ほど来ると、ロシアらしい木の柵にかこまれ、白樺が庭に生えた煉瓦だての小ざっぱりした建物がある。
 トントンとのぼる石段の入口が二つある。一つには「乳児入口」、もう一つには「学齢以前児童」と札が出ている。
 入って行くと、白い上っぱりを着て、頭も白い布でつつんだ姆母さんが出て来る。お客にも白い上っぱりを着せ、それから始めて内部を案内してくれる。托児所はキット一人の小児科医と数人の姆母さんと炊事掃除がかりとで構成されている…

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