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水の女
みずのおんな
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「古代研究1―祭りの発生」 中公クラシックス、中央公論新社
2002(平成14)年8月10日
初出「民族 第二巻第六号」1927(昭和2年)年9月、「民族 第三巻第二号」1928(昭和3年)年1月
入力者高柳典子
校正者多羅尾伴内
公開 / 更新2004-01-26 / 2014-09-18
長さの目安約 38 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

一 古代詞章の上の用語例の問題

 口頭伝承の古代詞章の上の、語句や、表現の癖が、特殊な――ある詞章限りの――ものほど、早く固定するはずである。だから、文字記録以前にすでにすでに、時代時代の言語情調や、合理観がはいってくることを考えないで、古代の文章および、それから事実を導こうなどとする人の多いのは、――そうした人ばかりなのは――根本から、まちごうた態度である。
 神聖観に護られて、固定のままあるいは拗曲したままに、伝った語句もある。だがたいていは、呪詞諷唱者・叙事詩伝誦者らの常識が、そうした語句の周囲や文法を変化させて辻褄を合せている。口頭詞章を改作したり、模倣したような文章・歌謡は、ことに時代と個性との理会程度に、古代の表現法を妥協させてくる。記・紀・祝詞などの記録せられる以前に、容易に原形に戻すことのできぬまでの変化があった。古詞および、古詞応用の新詞章の上に、十分こうしたことが行われた後に、やっと、記録に適当な――あるものは、まだ許されぬ――旧信仰退転の時が来た。奈良朝の記録は、そうした原形・原義と、ある距離を持った表現なることを、忘れてはならぬ。たとえば天の御蔭・日の御蔭・すめらみこと・すめみまなどいう語も、奈良朝あるいは、この近代の理会によって用いられている。なかには、一語句でいて、用語例の四つ五つ以上も持っているのがある。
 言語の自然な定義変化のほかに、死語・古語の合理解を元とした擬古文の上の用語例、こういう二方面から考えてみねば、古い詞章や、事実の真の姿は、わかるはずはない。

二 みぬまという語

 これから言う話なども、この議論を前提としてかかるのが便利でもあり、その有力な一つの証拠にも役立つわけなのである。
 出雲国造神賀詞に見えた、「をち方のふる川岸、こち方のふる川ぎしに生立(おひたてるヵ)若水沼間の、いやわかえに、み若えまし、すゝぎふるをとみの水のいや復元に、み変若まし、……」とある中の「若水沼間」は、全体何のことだか、国学者の古代研究始まって以来の難義の一つとなっている。「生立」とあるところから、生物と見られがちであった。ことに植物らしいという予断が、結論を曇らしてきたようである。宣長以上の組織力を示したただ一人の国学者鈴木重胤は、結局「くるす」の誤りという仮定を断案のように提出している。だが、何よりも先に、神賀詞の内容や、発想の上に含まれている、幾時代の変改を経てきた、多様な姿を見ることを忘れていた。
 早くとも、平安に入って数十年後に、書き物の形をとり、正確には、百数十年たってはじめて公式に記録せられたはずの寿詞であったことが、注意せられていなかった。口頭伝承の久しい時間を勘定にいれないでかかっているのは、他の宮廷伝承の祝詞の古い物に対したとおなじ態度である。
「ふる川の向う岸・こちら岸に、大きくなって立っているみぬまの若い…

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