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美女を盗む鬼神
びじょをぬすむきじん
作品ID1625
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中国の怪談(一)」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日
入力者Hiroshi_O
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2003-10-06 / 2014-09-18
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 梁の武帝の大同の末年、欧陽[#挿絵]という武人が、南方に出征して長楽という処に至り、その地方の匪乱か何かを平定して、山間嶮岨の地へ入った。その[#挿絵]は陣中に妻を携えていたが、その女は色が白く顔が美しかった。するとその地方の人が、
「君は何故美女を携えてここへ来た、ここには鬼神があって、美女と見れば必ず盗むので、往来の者でこの難に罹る事がある、君も能く守るがいい」
 と言った。[#挿絵]はまさかと思って疑ったが、それでも軍士に命じて家の外を衛らし、妻には十余人の侍女をつけて奥深い処に置いてあった。最初の晩は別に何事もなかったが、翌晩は烈しい風が吹き荒れた。夜半になって皆が疲れて睡ったところで、妻と枕を並べて寝ていた[#挿絵]は、うなされて眼が開いたので、妻の方を見るともう妻の姿が見えない。驚いて起きあがったが、戸締も宵のままになっているに係わらず、どこへ往ったのか見えない。戸外へ出て探そうにも、家の前はすぐ深山になっていて不用意には探せない。朝になるのを待ちかねて探したが、手がかりになる物も見当らなかった。
 [#挿絵]は最愛の妻を失った事であるから大いに怒り悲しんで、
「女を得なければ帰らない」
 と心に誓い、朝廷の方へは病気という事にして兵を留め、日々付近の山谷の間を探し歩いた。そして月を越えたところで、妻の履いていた韈を一つ拾った。それは駐屯地から支那の里程で百里ばかり往った処であった。[#挿絵]はそこで三十人の精兵を選んで、糧食を余分に用意してまた深山に分け入ったが、十日の後に二百里外の土地へ往った。
 そこには南方に当って半天に鑚り立った高山があった。その山の麓には谷川が滔々と流れていた。[#挿絵]の一行は巌角を伝い、樹の根に縋って、山の中へ入ったが、往っているうちに、女の笑い戯れる声がした。[#挿絵]は恠みながらその声をしるべにしてあがって往くと、大きな洞門があって、その前の花の咲き乱れた木の下で、数十人の美女が蝶の舞うように歌い戯れていた。[#挿絵]の一行が往くと女らは別に驚きもせず、
「何しにここへ来た」
 と言った。[#挿絵]がその訳を話すと、
「その婦ならここに来て三月になるが、今は病に罹って寝ている」
 と言って、[#挿絵]を誘うて中へ入った。
 病床にいた妻は[#挿絵]の顔を一眼見ると、手を振って、
「ここへ来ては危険だ、早く出て往け」
 と言った。[#挿絵]を誘うてきた美女達は、
「妾らも君の妻と同じく、鬼神のために奪われてきたもので、久しい者は十年にもなる、この鬼神は能く人を殺すが、百人の者が剣を持って一斉にかかっても勝つことができない、今は他行中であるから帰らないうちに早く往くがよい、もし鬼神を斃そうと思えば、美酒一斛、犬十頭、麻数十斤を用意してくるがよい、そして、重ねてくる時は、午後にくるがよい、それも、今日から十日という…

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