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蕎麦餅
そばもち
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中国の怪談(一)」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日
入力者Hiroshi_O
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2003-10-06 / 2014-09-18
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 唐の元和年中のことであった。許州の趙季和という男が東都に往く要事が出来たので、家を出て卞州の西になった板橋店まで往った。
 その板橋店には三娘子という宿屋があった。そこには三娘子という独身者の寡婦がいて、永い間旅人に食物を売る傍ら、数多の驢馬を飼って非常に安価で売るので、板橋店の三娘子といえば驢馬の店としても有名であった。旅人の季和も一泊りも二泊りも前からその名を聞いていたので、板橋店に入るとその家を尋ねて往った。
 もう日が暮れて燈火が点いていた。季和が門口へ往って扉を叩くと、瘠せた婆さんが顔を出した。季和はすぐそれがお媽さんの三娘子であろうと思って、
「お宅が、旅人に深切にしてくれるということを聞いて尋ねてきました、今晩どうか泊めてください」
 と、言うと婆さんは愛想笑いをした。
「いや、もう、別におかまいもいたしませんが、お客さん方が、よく御贔屓にしてくださいます、さあ、お入りください、ちょうど、皆さんに御飯をあげてるところでございます」
 中を見ると六七人の旅人が大きな卓へ向きあって酒を飲んでいた。皆の前に置いた皿からは温かそうな湯気がもやもやと立っていた。
「貴郎も彼処へ腰をおかけなさい、食べる物とお酒をあげます」
 婆さんは指で空いた牀を教えた。
「私は下戸だから、酒はいらない、食べる物をもらいたいが」
 酒は一滴もいけない季和はそう言って断った。
「一杯位はよろしゅうございましょう」
「有難いが、私は一滴も飲めない」
「では、食物をあげましょうか」
 婆さんは次の室へ入って往った。季和は卓の方へ往って皆に挨拶をしながら腰をかけた。酒に酔うてもういい気もちになっている者もあった。皆ちょっとの間季和の方へ注意を向けたが、すぐ忘れてしまったように隣同士で話をはじめる者もあれば、自個の陶酔の世界に帰って往く者もあった。
 やがて婆さんが二個の皿へ盛った食物を持ってきた。季和はそれをもらって黙って喫った。
 食事がすむと皆が一緒になって次の室へ往って寝た。室の中には燈火が一つ点いていた。食事の時から話していた話をそこへまで持ってきて、大声で話しあっていた男の声もやがて聞えなくなった。鼾の声があっちこっちに聞えてきた。
 季和は眼が冴えて睡れなかった。彼は右枕になってみたり、左枕になってみたりして身体を動かしていた。扉を開ける音がして何人かが入ってきた。それは婆さんであった。婆さんは皆の寝姿を一通り見ておいて、燈火を持って往こうとした。婆さんの眼と季和の眼が合った。
「早くお寝みなさいよ、よく寝ないと、明日苦しいから」
 季和はちょっと頷いて見せた。婆さんは出て往った。後は真暗になってしまった。季和は早く睡ろうと思って無理に眼を閉って、何も考えないようにして睡ろう睡ろうとしたが、そんなことをするとなおさら睡れない。半時あまりもそんなにしていたが、苦しくて…

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