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崔書生
さいしょせい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中国の怪談(一)」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-12-04 / 2014-09-18
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 崔は長安の永楽里という処に住んでいた。博陵の生れで渭南に別荘を持っていた。貞元年中のこと、清明の時分、渭南の別荘へ帰って往ったが、ある日、昭応という処まで往くと陽が暮れてしまった。
 崔は驚いて馬をいそがした。そこは松や柏の茂った林の下で、まだ空の方は明るかったが、林の中はうっすらと暮れていた。と、見ると、すぐむこうの方に一人の綺麗に着飾った若い女が立っていた。崔の馬が進んで往くと、女はびっくりしたように歩こうとしたが、気が顛倒しているかして、彼方へよろけ此方へよろけした。崔は僕を供に伴れていた。崔は僕を振り返った。
「道に迷ってるようだ、お前往って訊いてこい」
 僕も馬に乗っていた。僕は主人の崔を残しておいて女の傍へ往った。
 女は袖で顔をかくして僕を見なかった。僕はかえってきた。
「恥しがって何にも申しませんが、どこかこの近くの方でございましょう」
 崔は言った。
「そのままにしてもおけまい、お前の馬へ乗せて送ってやろうじゃないか」
 僕は馬から降りて馬の轡を取り、女の傍へ引返して往った。
「御主人がお送りいたせと申します、お乗りください、お送りいたしましょう」
 女は顔へやっていた袖をとって僕を見て微笑した。僕は女を軽がると抱きあげて馬へ乗せた。
「お宅は何方様でございます」
 女は黙ってむこうの方へ白い指をさした。僕は女の指の方へ馬を曳いて進んだ。崔もその後から馬を歩かせた。
 林の中は月の光がさしたように明るくなった。女は振り返って崔の方を見た。それは綺麗な紅い唇をした少女であった。女は笑った。崔も笑顔をしてそれを迎えた。
 すこし歩いているとむこうの方で女の声がした。二三人の青い着物を着た婢が来ていた。
「どんなにおさがししたか判りません」
 一人の婢は進んできて女を見た後に、その眼を僕へやった。
「どうもありがとうございました、御厄介をかけて相すみません」
「お嬢さんが、お困りになってらっしゃるのを、私の主人が見まして、お送り申せと申しますので、お送りいたしました、あの馬に乗ってるのが、私の御主人でございます」
 婢は崔の傍へ往った。
「とんだ御厄介をかけまして、ありがとうございます、すぐ傍でございますから、ちょっとお立ち寄りを願います」
 崔は女に眼を引かれていた。崔はそのまま帰りたくはなかった。一行は前へ往った。林のはずれがきた。年とった青い着物を着た婢が一人立っていた。年とった婢は崔の傍へ来た。
「お嬢様が御厄介をかけまして、なんともお礼の申しようもございません、今晩お酒宴をしておりますうちに、興にまかせて、お歩きになったために、こんなことになりました、お陰様でお怪我もせずにすみました、奥様がどんなにお喜びになるか判りません、お立ち寄りを願います」
 十丁あまりも往くとまた林がきた。林の入口に別荘風の家が見えて、そのまわりに桃と李の花が…

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