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柳毅伝
りゅうきでん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中国の怪談(一)」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-12-04 / 2014-09-18
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 唐の高宗の時に柳毅という書生があった。文官試験を受けたが合格しなかったので、故郷の呉に帰るつもりで[#挿絵]川の畔まで帰ってきたが、その[#挿絵]川の北岸に同郷の者が住んでいた。毅はまず知人の許へ立ち寄り、やがて別れて六七里も行ったところで、路傍におりていた鳥の群がばたばたと立って飛んだので、馬がその羽音に驚いて左へそれて走った。そして六七里も矢のように行ったかと思うと、ぴったり止ってしまった。柳毅は馬の頭を向けなおして本道へ出ようとして、ふと見ると羊を伴れた若い女が路ぶちに立っていた。それは品のある綺麗な女であったが、何か悲しいことでもあるのか涙ぐましい顔をしていた。柳毅は磊落な、思ったことはなんでも口にするという豪快な質の男であった。
「貴女のような美人が、どうしてそんなことをしているのです」
 女は淋しそうに笑った。
「私は、洞庭の竜王の女でございます。両親の命で、[#挿絵]川の次男に嫁づいておりましたが、夫が道楽者で、賤しい女に惑わされて、私を省みてくれませんから、お父さんとお母さんに訴えますと、お父さんも、お母さんも、自分の小児の肩を持って、私を虐待して追いだしました、私はこのことを洞庭の方へ言ってやりたいと思いますが、路が遠いので困っております、貴郎は呉にお帰りのようでございますが、どうか手紙を洞庭まで届けて戴けますまいか」
 女はすすり泣きをした。
「僕も男だ、君のそういうことを聞くと、どうにでもしてあげたいが、僕は人間だから、洞庭湖の中へは行けないだろう」
「洞庭の南に大きな橘の木がございます、土地の者はそれを社橘と言います、その木のある所へ行って、帯を解いて、それで三度木を打ってくださるなら、何人か来ることになっております」
「それで好いなら、とどけてあげよう」
 女は着物の間に入れていた手紙を出して毅に渡した。毅はそれを腰の嚢の中へ入れながら言った。
「貴女は何のために羊を牧しているのです」
「これは羊ではありません、雨工です」
「雨工とはどんな物ですか」
「雷の類です」
 毅は驚いて羊のようなその獣に眼をやった。首の振り方から歩き方が羊と違った荒あらしさを持っていた。毅は笑った。
「では、これを洞庭へとどけてあげよう、そのかわり、帰ってきた時は、貴女は逃げないでしょうね」
「決して逃げはいたしません」
「では、別れましょう、さようなら」
 毅は馬を東の方へ向けたが、ちょと行って振り返って見ると、もう女の影も獣の影も見えなかった。
 毅はそれから一月あまりかかって故郷に帰ったが、自分の家へ行李を解くなり旅の疲労も癒さずに洞庭へ行って、女に教えられたように洞庭湖の縁を南へ行った。葉がくれに黄いろな実の見える大きな橘の木がすぐ見つかった。毅はこれだなと思ったので、帯を解いて橘の幹を三度叩いた。そして、終ってその眼を水の方へやったところで、一…

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