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純情小曲集
じゅんじょうしょうきょくしゅう
作品ID1788
副題02 純情小曲集
02 じゅんじょうしょうきょくしゅう
著者萩原 朔太郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「萩原朔太郎全集 第二卷」 筑摩書房
1976(昭和51)年3月25日
初出夜汽車「朱欒 第三卷第五號」1913(大正2)年5月号<br>こころ「朱欒 第三卷第五號」1913(大正2)年5月号<br>女よ「朱欒 第三卷第五號」1913(大正2)年5月号<br>櫻「朱欒 第三卷第五號」1913(大正2)年5月号<br>旅上「朱欒 第三卷第五號」1913(大正2)年5月号<br>金魚「朱欒 第三卷第五號」1913(大正2)年5月号<br>靜物「創作 第四卷第七號」1914(大正3)年7月号<br>涙「創作 第三卷第一號」1913(大正2)年8月号<br>蟻地獄「創作 第三卷第一號」1913(大正2)年8月号<br>利根川のほとり「創作 第三卷第一號」1913(大正2)年8月号<br>濱邊「創作 第三卷第四號」1913(大正2)年11月号<br>緑蔭「創作 第三卷第二號」1913(大正2)年9月号<br>再會「アララギ 第七卷第九號」1914(大正3)年10月号<br>地上「創作 第四卷第六號」1914(大正3)年6月号<br>花鳥「創作 第四卷第六號」1914(大正3)年6月号<br>初夏の印象「創作 第四卷第六號」1914(大正3)年6月号<br>洋銀の皿「創作 第四卷第五號」1914(大正3)年5月号<br>月光と海月「詩歌 第四卷第五號」1914(大正3)年5月号<br>中學の校庭「薔薇」1923(大正12)年1月号<br>才川町「現代詩人選集」1921(大正10)年2月刊<br>小出新道「日本詩人 第五卷第六號」1925(大正14)年6月号<br>新前橋驛「日本詩人 第五卷第六號」1925(大正14)年6月号<br>大渡橋「日本詩人 第五卷第六號」1925(大正14)年6月号<br>公園の椅子「上州新報」1924(大正13)年1月1日<br>郷土望景詩の後に「日本詩人 第五卷第六號」1925(大正14)年6月号
入力者kompass
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2005-07-19 / 2018-12-14
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

北原白秋氏に捧ぐ
[#改ページ]

  自序


 やさしい純情にみちた過去の日を記念するために、このうすい葉つぱのやうな詩集を出すことにした。「愛憐詩篇」の中の詩は、すべて私の少年時代の作であつて、始めて詩といふものをかいたころのなつかしい思ひ出である。この頃の詩風はふしぎに典雅であつて、何となくあやめ香水の匂ひがする。いまの詩壇からみればよほど古風のものであらうが、その頃としては相當に珍らしいすたいるでもあつた。
 ともあれこの詩集を世に出すのは、改めてその鑑賞的評價を問ふためではなく、まつたく私自身への過去を追憶したいためである。あるひとの來歴に對するのすたるぢやとも言へるだらう。

「郷土望景詩」十篇は、比較的に最近の作である。私のながく住んでゐる田舍の小都邑と、その附近の風物を詠じ、あはせて私自身の主觀をうたひこんだ。この詩風に文語體を試みたのは、いささか心に激するところがあつて、語調の烈しきを欲したのと、一にはそれが、詠嘆的の純情詩であつたからである。ともあれこの詩篇の内容とスタイルとは、私にしては分離できない事情である。
「愛憐詩篇」と「郷土望景詩」とは、創作の年代が甚だしく隔たるために、詩の情操が根本的にちがつてゐる。(したがつてまたその音律もちがつてゐる。)しかしながら共に純情風のものであり、詠嘆的文語調の詩である故に、あはせて一册の本にまとめた。私の一般的な詩風からみれば、むしろ變り種の詩集であらう。

 私の藝術を、とにかくにも理解してゐる人は可成多い。私の人物と生活とを、常に知つてゐる人も多少は居る。けれども藝術と生活とを、兩方から見てゐる知己は殆んど居ない。ただ二人の友人だけが、詩と生活の兩方から、私に親しく往來してゐた。一人は東京の詩友室生犀星君であり、一人は郷土の詩人萩原恭次郎君である。
 この詩集は、詩集である以外に、私の過去の生活記念でもある故に、特に書物の序と跋とを、二人の知友に頼んだのである。

  西暦一九二四年春
    利根川に近き田舍の小都市にて
著者
[#改ページ]

  出版に際して


 昨年の春、この詩集の稿をまとめてから、まる一年たつた今日、漸く出版する運びになつた。この一年の間に、私は住み慣れた郷土を去つて、東京に移つてきたのである。そこで偶然にもこの詩集が、私の出郷の記念として、意味深く出版されることになつた。
 郷土! いま遠く郷土を望景すれば、萬感胸に迫つてくる。かなしき郷土よ。人人は私に情なくして、いつも白い眼でにらんでゐた。單に私が無職であり、もしくは變人であるといふ理由をもつて、あはれな詩人を嘲辱し、私の背後から唾をかけた。「あすこに白痴が歩いて行く。」さう言つて人人が舌を出した。
 少年の時から、この長い時日の間、私は環境の中に忍んでゐた。さうして世と人と自然を憎み、いつさいに叛いて行か…

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