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田原藤太
たわらとうだ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の英雄伝説」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年6月10日
入力者鈴木厚司
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2003-10-29 / 2014-09-18
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     一

 むかし近江の国に田原藤太という武士が住んでいました。ある日藤太が瀬田の唐橋を渡って行きますと、橋の上に長さ二十丈もあろうと思われる大蛇がとぐろをまいて、往来をふさいで寝ていました。二つの目玉がみがき上げた鏡を並べたようにきらきらかがやいて、剣を植えたようなきばがつんつん生えた間から、赤い舌がめらめら火を吐くように動いていました。あたり前の人なら、見ただけで目を回してしまうところでしょうが、藤太は平気な顔をして、大蛇の背中の上を踏んで歩いて行きました。しばらく行くと、後ろでだしぬけに、
「もしもし。」
 という声がしました。その時はじめてふり向いてみますと、今までそこにとぐろをまいていた大蛇は影も形もなくなって、青い着物を着た小さな男が、しょんぼりそこに座って、おじぎをしていました。
 藤太は不思議そうにその男の様子をながめて、
「今わたしを呼んだのはお前か。」
 と聞きました。小男はまたていねいに頭を下げて、
「はい、わたくしでございます。じつはぜひあなたにお願いしたいことがございます。」
 といいました。
「それは聞いてあげまいものでもないが、いったいお前は何者だ。」
「わたくしは長年この湖の中に住んでいる龍王でございます。」
「ふん、龍王。するとさっき橋の上に寝ていたのはお前かね。」
「へい。」
「それで用というのは。」
「それはこうでございます。いったいわたくしはもう二千年の昔からこの湖の中に住んで、何不足なく暮らしていたものでございます。それがいつごろからかあのそれ、あちらに見えます三上山に、大きなむかでが来て住むようになりました。それがこのごろになって、この湖を時々荒らしにまいりまして、そのたんびにわたくしどもの子供を一人ずつさらって行くのです。どうかして敵を打ちたいと思いますが、何分向こうは三上山を七巻き半も巻くという大むかでのことでございますから、よし向かって行っても勝つ見込みがございません。そうかといって、このまま捨てておけば子供は残らず、わたくしまでもむかでに取られて、この湖の中に生きものの種が尽きてしまうでしょう。こうなると、もうなんでも強い人に加勢を頼むよりしかたがないと思いまして、この間から橋の上に寝て待っていたのでございます。けれどもみんなわたくしの姿を見ただけで逃げて行ってしまうのでございます。これでは世の中にほんとうに強い人というものはないものかと、じつはがっかりしておりました。それがただ今あなたにお目にかかることができて、こんなにうれしいことはございません。どうかわたくしたちのために、あのむかでを退治しては頂けますまいか。」
 こういって龍王はていねいに頭を下げました。藤太はやさしい、情けぶかい武士でしたから、
「それはどうも気の毒なことだ。ではさっそく行って、そのむかでを退治してあげよう。」
 といいました…

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