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大江山
おおえやま
作品ID18339
著者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の英雄伝説」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年6月10日
入力者鈴木厚司
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2003-10-29 / 2014-09-18
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一

 むかし源頼光という大将がありました。その家来に渡辺綱、卜部季武、碓井貞光、坂田公時という四人の強い武士がいました。これが名高い、「頼光の四天王」でございます。
 そのころ丹波の大江山に、酒呑童子と呼ばれた恐ろしい鬼が住んでいて、毎日のように都の町へ出て来ては、方々の家の子供をさらって行きました。そしてさんざん自分のそばにおいて使って、用がなくなると食べてしまいました。
 するとある時、池田中納言という人の一人きりのお姫さまが急に見えなくなりました。中納言も奥方もびっくりして、死ぬほど悲しがって、上手な占い者にたのんでみてもらいますと、やはり大江山の鬼に取られたということがわかりました。
 中納言はさっそく天子さまの御所へ上がって、大事な娘が大江山の鬼に取られたことをくわしく申し上げて、どうぞ一日もはやく鬼を退治して、世間の親たちの難儀をお救い下さるようにとお願い申し上げました。
 天子さまはたいそう気の毒に思し召して、
「だれか武士のうちに大江山の鬼を退治するものはないか。」
 と大臣におたずねになりました。すると大臣は、
「それは源氏の大将頼光と、それについております四天王の侍どもにかぎります。」
 と申し上げました。天子さまは、
「なるほど頼光ならば、必ず大江山の鬼を退治して来るに相違ない。」
 とおっしゃって、頼光をお呼び出しになりました。
 頼光は天子さまのおいいつけを伺いますと、すぐかしこまってうちへ帰りましたが、なにしろ相手は人間と違って、変化自在な鬼のことですから、大ぜい武士を連れて行って、力ずくで勝とうとしても、鬼にうまく逃げられてしまってはそれまでです。なんでもこれは人数は少なくともよりぬきの強い武士ばかりで出かけて行って、力ずくよりは智恵で勝つ工夫をしなければなりません。こう思ったので、頼光は家来の四天王の外には、一ばん仲のいい友達の平井保昌だけをつれて行くことにしました。世間ではこの保昌のことを四天王に並べて、一人武者といっていました。
 それからこれは人間の力だけには及ばない、神様のお力をもお借りしなければならないというので、頼光と保昌は男山の八幡宮に、綱と公時は住吉の明神に、貞光と季武は熊野の権現におまいりをして、めでたい武運を祈りました。
 さていよいよ大江山へ向けて立つことにきめると、頼光はじめ六人の武士はいずれも山伏の姿になって、頭に兜巾をかぶり、篠掛を着ました。そして鎧や兜は笈の中にかくして、背中に背負って、片手に金剛杖をつき、片手に珠数をもって、脚絆の上に草鞋をはき、だれの目にも山の中を修行して歩く山伏としか見えないような姿にいでたちました。

     二

 六人の武士はいくつとなくけわしい山を越えて大江山のふもとに着きました。たまたまきこりに会えば道を聞き聞き、鬼の岩屋のあるという千丈ガ岳を一すじに…

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