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ぬえ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の英雄伝説」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年6月10日
入力者鈴木厚司
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2003-10-31 / 2014-09-18
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     一

 ある時天子さまがたいそう重い不思議な病におかかりになりました。なんでも夜中すぎになると、天子さまのおやすみになる紫宸殿のお屋根の上になんとも知れない気味の悪い声で鳴くものがあります。その声をお聞きになると、天子さまはおひきつけになって、もうそれからは一晩じゅうひどいお熱が出て、おやすみになることができなくなりました。そういうことが三日四日とつづくうち、天子さまのお体は目に見えて弱って、御食事[#「御食事」は底本では「後食事」]《おしょくじ》もろくろくに召し上がれないし、癇ばかり高ぶって、見るもお気の毒な御容態になりました。
 そこで毎晩御所を守る武士が大ぜい、天子さまのおやすみになる御殿の床下に寝ずの番をして、どうかしてこの妖しい鳴き声の正体を見届けようといたしました。
 するうちそれは、なんでも毎晩おそくなると、東の方から一むらの真っ黒な雲が湧き出して来て、だんだん紫宸殿のお屋根の上におおいかかります。やがて大きなつめでひっかくような音がすると思うと、はじめ真っ黒な雲と思われていたものが急に恐ろしい化けものの形になって、大きなつめを恐れ多くも御所のお屋根の上でといでいるのだということがわかりました。
 しかしこうして捨てて置けば天子さまのお病はいよいよ重くなって、どんな大事にならないとも限りません。これは一日も早くこの怪しいものを退治して、天子さまのお悩みを鎮めてあげなければならないというので、お公卿さまたちがみんな寄って相談をしました。
 なにしろそれにはなに一つし損じのないように、武士の中でも一番弓矢の技のたしかな、心のおちついた人をえらばなければなりません。あれかこれかと考えてみますと、さしあたり源頼政の外に、この大役をしおおせるものがございません。そこで相談がきまって、頼政が呼びだされることになりました。
 どうして頼政がそういう名誉を担うようになったかと申しますと、いったいこの頼政は、あの大江山の鬼を退治した頼光には五代めの孫に当たりました。元々武芸の家柄である上に、生まれ付き弓矢の名人で、その上和歌の道にも心得があって、礼儀作法のいやしくない、いわば文武の達人という評判の高い人だったのです。

     二

 頼政は仰せを承りますと、さっそく鎧胴の上に直垂を着、烏帽子を被って、丁七唱、猪早太という二人の家来をつれて、御所のお庭につめました。唱には雷上動という弓に黒鷲の羽ではいた水破という矢と、山鳥の羽ではいた兵破という矢を持たせました。早太には骨食という短刀を懐に入れてもたせました。
 ちょうど五月雨が降ったり止んだりいつもうっとうしい空のころで、夜になるとまっくらで、月も星も見えません。その中であやしい黒い雲がいつどこからわいて来るか、それを見定めるのはなかなかむずかしいことでした。するうち夜中近くなると、いつものとおり東…

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