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やどなし犬
やどなしいぬ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「鈴木三重吉童話集」 岩波文庫、岩波書店
1996(平成8)年11月18日
初出「赤い鳥」1924(大正13)年1月
入力者鈴木厚司
校正者佳代子
公開 / 更新2004-03-06 / 2014-09-18
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

       一

 むかし、アメリカの或小さな町に、人のいい、はたらきものの肉屋がいました。冬の半の或寒い朝のことでした。外は、ひどい風が雨を横なぐりにふきつけて、びゅうびゅうあれつづけています。人々は、こうもりのえにかたくつかまりながら、ころがるようなかっこうをして、つとめの場所へ出ていきます。肉屋は、店のわかいものたちと一しょに、かじかんだ手で、肉切ぼうちょうをといでいました。
 すると、店のまえのたたきのところへ、一ぴきのやせた犬がびしょぬれになって、のそりのそりとやって来ました。そして、はげしいしぶきの中に、のこりとすわって、店先に下っている肉のかたまりを、じろじろ見上げていました。どこかのやどなし犬でしょう。肉屋もこれまで見たこともないきたならしい犬でした。骨ぐみは小さくもありませんが、どうしたのか、ひどくやせほそって、下腹の皮もだらりとしなび下っています。寒いのと、おそらくひもじいのと両方で、からだをぶるぶるふるわせ、下あごをがたがたさせながら、引きつれたような、ぐったりした顔をして、じろじろと、かぎにかかった肉を見つめています。
 肉屋は、おどけた目つきをして、ちょいちょいそのやせ犬を見やりながら、ほうちょうをこすっていました。犬は肉屋の注意を引くように、ときどきくんくん鼻をならしてはこっちを見ます。そのうちに肉屋はほうちょうをとぎおえて、刃先をためすために、そばの大きな肉のはしの、ざらざらになったところを、少しばかり切り落しました。そして、
「ほら。」と言って、やせ犬になげてやりました。すると犬は、それが地びたへおちないうちに、ぴょいと上手に口へうけて、ぱくりと一口にのみこんでしまいました。肉屋はおもしろはんぶんに、こんどは少し大きく切りとって、ぽいとたかくなげて見ました。犬はさっと後足で立ち上って、それをも上手にうけとり、がつがつと二どばかりかんでのみこみました。
「へえ、こいつはまるでかるわざ師だ。どうだい、牛一ぴきのこらずくうまでかるわざをやるつもりかい? ほら、来た。よ、もう一つ。ほうら。よ、ほら。」と、肉屋はあとから/\と何どとなく切ってはなげました。犬は、そのたんびに、ぴょいぴょいと上手にとって、ぱくぱく食べてしまいます。
「おまいは、おれの店の肉をみんなくっていく気だな? さあ、もうこれでおしまいだ。そのかわり少々かたいぞ。」と、肉屋は最後に、出来るだけわるいところをどっさり切ってなげつけました。しかし、犬はもうそのしまいの一きれだけは食べようともしずに、しばらくそれをじろじろ見つめています。
「何だ。何を考えてるんだい。」と肉屋は思いました。そのうちに、犬はふと、その肉をくわえるなり、どんどん、町角の方へかけさってしまいました。
 そのあくる日は、からりと晴れたいいお天気でした。きのうの雨できれいにあらわれた往来にはもくもく…

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