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物のいわれ
もののいわれ
作品ID18390
著者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の諸国物語」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年4月10日
入力者鈴木厚司
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2003-10-31 / 2014-09-18
長さの目安約 23 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

目次

物のいわれ(上)[#「(上)」は縦中横]
 そばの根はなぜ赤いか
 猿と蟹
 狐と獅子
 蛙とみみず
 すずめときつつき
物のいわれ(下)[#「(下)」は縦中横]
 ふくろうと烏
 蜜蜂
 ひらめ
 ほととぎす
 鳩


   物のいわれ(上)[#「(上)」は縦中横]

     そばの根はなぜ赤いか

       一

 あなたはおそばの木を知っていますか。あんなに真っ白な、雪のようなきれいな花が咲くくせに、一度畑に行って、よくその根をしらべてごらんなさい。それは血のように真っ赤です。いったいおそばの根は、いつからあんなに赤く染まったのでしょうか。それにはこんなお話があるのです。
 むかし、三人の男の子を持ったおかあさんがありました。総領が太郎さん、二ばんめが次郎さん、いちばん末っ子のごく小さいのが、三郎さんです。
 ある日、おかあさんは、町まで買い物に出かけました。出がけにおかあさんは、三人の子供を呼んで、
「おかあさんは町まで買い物に行って来ます。じき帰って来ますから、三人で仲よくお留守番をするのですよ。戸をしっかりしめて、みんなでおとなしくうちの中に入っておいでなさい。ひょっとすると悪い山姥が、おかあさんの姿に化けて、お前たちをだましに来ないものでもないから、よく気をつけて、けっして戸をあけてはいけません。山姥はいくら上手に化けても、声が、しゃがれたがあがあ声で、手足も、松の木のようにがさがさした、真っ黒な手足をしていますから、けっしてだまされてはいけませんよ。」
 といい聞かせました。すると子供たちは、
「おかあさん、心配しないでもいいよ。おかあさんのいうとおりにして待っているからね。」
 といったので、おかあさんは安心して出て行きました。
 ところがじき帰って来るといったおかあさんは、なかなか帰って来ないで、そろそろ日が暮れかけてきました。子供たちはだんだん心配になってきました。「おかあさんはどうしたんだろうね。」とみんなでいい合っていますと、だれかおもての戸をとんとんとたたいて、
「子供たちや、あけておくれ。おかあさんだよ。お前たちのすきなおみやげを、たんと買って来たからね。」
 といいました。
 けれども子供たちは、しゃがれたがあがあ声をしているから、おかあさんではない。山姥が化けて来たにちがいないと思って、
「あけない、あけない、お前はおかあさんじゃあないよ。おかあさんはやさしい声だ。お前の声はがあがあしゃがれている。お前はきっと山姥にちがいない。」
 といいました。
 ほんとうにそれは山姥にちがいありませんでした。山姥は途中で、おかあさんをつかまえて食べてしまったのです。そしておかあさんに化けて、こんどは子供たちを食べに来たのです。けれども、子供たちが入れてくれないものですから、困って、村の油屋へ行って、油を一升盗んで、それをみ…

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