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浮雲
うきぐも
作品ID1869
著者二葉亭 四迷
文字遣い新字新仮名
底本 「浮雲」 新潮文庫、新潮社
1951(昭和26)年12月15日
入力者佐野暢之、任天堂株式会社
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2008-12-25 / 2014-09-21
長さの目安約 232 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   浮雲はしがき

 薔薇の花は頭に咲て活人は絵となる世の中独り文章而已は黴の生えた陳奮翰の四角張りたるに頬返しを附けかね又は舌足らずの物言を学びて口に涎を流すは拙しこれはどうでも言文一途の事だと思立ては矢も楯もなく文明の風改良の熱一度に寄せ来るどさくさ紛れお先真闇三宝荒神さまと春のや先生を頼み奉り欠硯に朧の月の雫を受けて墨摺流す空のきおい夕立の雨の一しきりさらさらさっと書流せばアラ無情始末にゆかぬ浮雲めが艶しき月の面影を思い懸なく閉籠て黒白も分かぬ烏夜玉のやみらみっちゃな小説が出来しぞやと我ながら肝を潰してこの書の巻端に序するものは

   明治丁亥初夏
二葉亭四迷
[#改ページ]

   浮雲第一篇序

 古代の未だ曾て称揚せざる耳馴れぬ文句を笑うべきものと思い又は大体を評し得ずして枝葉の瑕瑾のみをあげつらうは批評家の学識の浅薄なるとその雅想なきを示すものなりと誰人にやありけん古人がいいぬ今や我国の文壇を見るに雅運日に月に進みたればにや評論家ここかしこに現われたれど多くは感情の奴隷にして我好む所を褒め我嫌うところを貶すその評判の塩梅たる上戸の酒を称し下戸の牡丹餅をもてはやすに異ならず淡味家はアライを可とし濃味家は口取を佳とす共に真味を知る者にあらず争でか料理通の言なりというべき就中小説の如きは元来その種類さまざまありて辛酸甘苦いろいろなるを五味を愛憎する心をもて頭くだしに評し去るは豈に心なきの極ならずや我友二葉亭の大人このたび思い寄る所ありて浮雲という小説を綴りはじめて数ならぬ主人にも一臂をかすべしとの頼みありき頼まれ甲斐のあるべくもあらねど一言二言の忠告など思いつくままに申し述べてかくて後大人の縦横なる筆力もて全く綴られしを一閲するにその文章の巧なる勿論主人などの及ぶところにあらず小説文壇に新しき光彩を添なんものは蓋しこの冊子にあるべけれと感じて甚だ僭越の振舞にはあれど只所々片言隻句の穩かならぬふしを刪正して竟に公にすることとなりぬ合作の名はあれどもその実四迷大人の筆に成りぬ文章の巧なる所趣向の面白き所は総て四迷大人の骨折なり主人の負うところはひとり僭越の咎のみ読人乞うその心してみそなわせ序ながら彼の八犬伝水滸伝の如き規摸の目ざましきを喜べる目をもてこの小冊子を評したまう事のなからんには主人は兎も角も二葉亭の大人否小説の霊が喜ぶべしと云爾

  第二十年夏
春の屋主人
[#改ページ]

   第一編

     第一回 アアラ怪しの人の挙動

 千早振る神無月ももはや跡二日の余波となッた二十八日の午後三時頃に、神田見附の内より、塗渡る蟻、散る蜘蛛の子とうようよぞよぞよ沸出でて来るのは、孰れも顋を気にし給う方々。しかし熟々見て篤と点[#挿絵]すると、これにも種々種類のあるもので、まず髭から書立てれば、口髭、頬髯、顋の鬚、暴に興起した拿破崙髭に、狆の口め…

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