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北守将軍と三人兄弟の医者
ほくしゅしょうぐんとさんにんきょうだいのいしゃ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「新修宮沢賢治全集 第十三巻」 筑摩書房
1980(昭和55)年3月15日
入力者林幸雄
校正者今井忠夫
公開 / 更新2003-10-02 / 2014-09-18
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

      一、三人兄弟の医者

 むかしラユーといふ首都に、兄弟三人の医者がゐた。いちばん上のリンパーは、普通の人の医者だつた。その弟のリンプーは、馬や羊の医者だつた。いちばん末のリンポーは、草だの木だのの医者だつた。そして兄弟三人は、町のいちばん南にあたる、黄いろな崖のとつぱなへ、青い瓦の病院を、三つならべて建ててゐて、てんでに白や朱の旗を、風にぱたぱた云はせてゐた。
 坂のふもとで見てゐると、漆にかぶれた坊さんや、少しびつこをひく馬や、萎れかかつた牡丹の鉢を、車につけて引く園丁や、いんこを入れた鳥籠や、次から次とのぼつて行つて、さて坂上に行き着くと、病気の人は、左のリンパー先生へ、馬や羊や鳥類は、中のリンプー先生へ、草木をもつた人たちは、右のリンポー先生へ、三つにわかれてはひるのだつた。
 さて三人は三人とも、実に医術もよくできて、また仁心も相当あつて、たしかにもはや名医の類であつたのだが、まだいゝ機会がなかつたために別に位もなかつたし、遠くへ名前も聞えなかつた。ところがたうとうある日のこと、ふしぎなことが起つてきた。

      二、北守将軍ソンバーユー

 ある日のちやうど日の出ごろ、ラユーの町の人たちは、はるかな北の野原の方で、鳥か何かがたくさん群れて、声をそろへて鳴くやうな、をかしな音を、ときどき聴いた。はじめは誰も気にかけず、店を掃いたりしてゐたが、朝めしすこしすぎたころ、だんだんそれが近づいて、みんな立派なチヤルメラや、ラツパの音だとわかつてくると、町ぢゆうにはかにざわざわした。その間にはぱたぱたいふ、太鼓の類の音もする。もう商人も職人も、仕事がすこしも手につかない。門を守つた兵隊たちは、まづ門をみなしつかりとざし、町をめぐつた壁の上には、見張りの者をならべて置いて、それからお宮へ知らせを出した。
 そしてその日の午ちかく、ひづめの音や鎧の気配、また号令の声もして、向ふはすつかり、この町を、囲んでしまつた模様であつた。
 番兵たちや、あらゆる町の人たちが、まるでどきどきやりながら、矢を射る孔からのぞいて見た。壁の外から北の方、まるで雲霞の軍勢だ。ひらひらひかる三角旗や、ほこがさながら林のやうだ。ことになんとも奇体なことは、兵隊たちが、みな灰いろでぼさぼさして、なんだかけむりのやうなのだ。するどい眼をして、ひげが二いろまつ白な、せなかのまがつた大将が、尻尾が箒のかたちになつて、うしろにぴんとのびてゐる白馬に乗つて先頭に立ち、大きな剣を空にあげ、声高々と歌つてゐる。
「北守将軍ソンバーユーは
いま塞外の砂漠から
やつとのことで戻つてきた。
勇ましい凱旋だと云ひたいが
実はすつかり参つて来たのだ
とにかくあすこは寒い処さ。
三十年といふ黄いろなむかし
おれは十万の軍勢をひきゐ
この門をくぐつて威張つて行つた。
それからどうだもう見るものは空ばか…

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