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婦人雑誌と猫
ふじんざっしとねこ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆 別巻96 大正」 作品社
1999(平成11)年2月25日
入力者加藤恭子
校正者菅野朋子
公開 / 更新2001-05-23 / 2014-09-17
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 我日本の性研究の或者が唯一の虎の巻として居る『性の心理』の著者ハヴェロック・エリスは、性学の大家であり医学者であると同時に、極めて勝れた文人である。此人が近頃著はした『随想録』第二巻(Havelock Ellis, 1921 : Impressions & Comments. 2nd. Series.)の序に、自分も老境に入つて、今迄事に触れ感じた事共を将来系統だつた著述にする事も覚束無いから、取敢へず所感を順序も無く書き列ねて公けにしたいと述べて居る。
 即ち「秋になれば、木の葉ももはや何の生活作用を営む必要が無い事を、我々は承知して居る。それらの葉が木に縋りついて居るべき必要は無い。そこでそれらを木枯しの風のまに/\吹き散らさせて見よう。」斯く吹き散らされて来た葉の幾つかの内、私の目に触れて面白かつたものを二つ程紹介して見よう。

「八月十五日、私は田舎行の或列車のすいた一室に入つて、自分の席の側に残されて居た極く有り触れた体裁の雑誌を手にとつた。それは安い週刊雑誌で、嘗て名も聞いた事も無いものだが、婦人向きで確かに其発行部数は莫大なものであらう。私は其各頁を繰つて見た。恐らく誰でも想像する事なのだが、目下の形勢から見て、婦人一般は女子参政権運動に関して非常に興奮してるとか、又は少なく共多少の興味を持つて居ようと思ふかも知れぬ。所が其雑誌には初めから終り迄参政権の参の字も見当らぬ。又現に我々が見て婦人が参加して居ると思ふ社会運動の各々に就いて、一言も費して居らぬ、又思想とか宗教とかいふ題目には全く触れて居ない。所で一方に於て此雑誌の読者の頭を悩まし又肩を入れて居る三大問題といふのは、三個のシー(Clothes, Cookery, Courtship)即ち着物と料理と異性の愛を求める事である。どうして古い帽子を買ひたてに見せる事が出来ようか、砂糖漬の製法、或男が接近して来た時如何に振舞ふべきものか、之等の問題は此雑誌の読者が深い興味で取扱ふて居るものであり、之以外に彼女達が思ひを及ぼす事があらうとも考へられない」。
「殊に教訓に富むのは記者と読者との問答で、色々の問題が論じられて居る。例へば今仮に、或女は或男を好いて居ます、そして其男も其女を好いて居るやうに女自身も思ふて居ますが、其男は口に出して何も申しませぬ、記者様、此際何としていゝものか、どうぞ教へて下さいませ、とある。其れに対しての答は、此問が極めて真面目な事を認めて、親切に賢明にさながら母の様に、此小天地の中の読者の頭の程度に応じて、立派に調子を取つて答へてある」。
「併し彼女達の世界は何と小さいものだらう。斯様に狭く、又石器時代の様に斯くも古い、又いぢらしい程単純で善良で柔和で謙遜で、徹頭徹尾女らしく出来て居る。此薄つぺらな月並雑誌の悪い印刷の頁を繰る時、一滴の涙を落とすまいと努めても困難であ…

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