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ドグラ・マグラ
ドグラ・マグラ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集9」 ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年4月22日
入力者砂場清隆
校正者ドグラマグラを世に出す会
公開 / 更新2007-12-24 / 2014-09-21
長さの目安約 857 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#ページの左右中央]


 巻頭歌


胎児よ

胎児よ

何故躍る

母親の心がわかって

おそろしいのか


[#改ページ]

 …………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
 私がウスウスと眼を覚ました時、こうした蜜蜂の唸るような音は、まだ、その弾力の深い余韻を、私の耳の穴の中にハッキリと引き残していた。
 それをジッと聞いているうちに……今は真夜中だな……と直覚した。そうしてどこか近くでボンボン時計が鳴っているんだな……と思い思い、又もウトウトしているうちに、その蜜蜂のうなりのような余韻は、いつとなく次々に消え薄れて行って、そこいら中がヒッソリと静まり返ってしまった。
 私はフッと眼を開いた。
 かなり高い、白ペンキ塗の天井裏から、薄白い塵埃に蔽われた裸の電球がタッタ一つブラ下がっている。その赤黄色く光る硝子球の横腹に、大きな蠅が一匹とまっていて、死んだように凝然としている。その真下の固い、冷めたい人造石の床の上に、私は大の字型に長くなって寝ているようである。
 ……おかしいな…………。
 私は大の字型に凝然としたまま、瞼を一パイに見開いた。そうして眼の球だけをグルリグルリと上下左右に廻転さしてみた。
 青黒い混凝土の壁で囲まれた二間四方ばかりの部屋である。
 その三方の壁に、黒い鉄格子と、鉄網で二重に張り詰めた、大きな縦長い磨硝子の窓が一つ宛、都合三つ取付けられている、トテも要心堅固に構えた部屋の感じである。
 窓の無い側の壁の附け根には、やはり岩乗な鉄の寝台が一個、入口の方向を枕にして横たえてあるが、その上の真白な寝具が、キチンと敷き展べたままになっているところを見ると、まだ誰も寝たことがないらしい。
 ……おかしいぞ…………。
 私は少し頭を持ち上げて、自分の身体を見廻わしてみた。
 白い、新しいゴワゴワした木綿の着物が二枚重ねて着せてあって、短かいガーゼの帯が一本、胸高に結んである。そこから丸々と肥って突き出ている四本の手足は、全体にドス黒く、垢だらけになっている……そのキタナラシサ……。
 ……いよいよおかしい……。
 怖わ怖わ右手をあげて、自分の顔を撫でまわしてみた。
 ……鼻が尖んがって……眼が落ち窪んで……頭髪が蓬々と乱れて……顎鬚がモジャモジャと延びて……。
 ……私はガバと跳ね起きた。
 モウ一度、顔を撫でまわしてみた。
 そこいらをキョロキョロと見廻わした。
 ……誰だろう……俺はコンナ人間を知らない……。
 胸の動悸がみるみる高まった。早鐘を撞くように乱れ撃ち初めた……呼吸が、それに連れて荒くなった。やがて死ぬかと思うほど喘ぎ出した。……かと思うと又、ヒッソリと静まって来た。
 ……こんな不思議なことがあろうか……。
 ……自分で自分を忘れてしまっている……。
 ……いくら考えても、どこの何者だか思い出…

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