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浅草公園
あさくさこうえん
作品ID21
副題或シナリオ
あるシナリオ
著者芥川 竜之介
文字遣い新字新仮名
底本 「芥川龍之介全集6」 ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年3月24日
入力者j.utiyama
校正者かとうかおり
公開 / 更新1999-02-01 / 2014-09-17
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

          1

 浅草の仁王門の中に吊った、火のともらない大提灯。提灯は次第に上へあがり、雑沓した仲店を見渡すようになる。ただし大提灯の下部だけは消え失せない。門の前に飛びかう無数の鳩。

          2

 雷門から縦に見た仲店。正面にはるかに仁王門が見える。樹木は皆枯れ木ばかり。

          3

 仲店の片側。外套を着た男が一人、十二三歳の少年と一しょにぶらぶら仲店を歩いている。少年は父親の手を離れ、時々玩具屋の前に立ち止まったりする。父親は勿論こう云う少年を時々叱ったりしないことはない。が、稀には彼自身も少年のいることを忘れたように帽子屋の飾り窓などを眺めている。

          4

 こう云う親子の上半身。父親はいかにも田舎者らしい、無精髭を伸ばした男。少年は可愛いと云うよりもむしろ可憐な顔をしている。彼等の後ろには雑沓した仲店。彼等はこちらへ歩いて来る。

          5

 斜めに見たある玩具屋の店。少年はこの店の前に佇んだまま、綱を上ったり下りたりする玩具の猿を眺めている。玩具屋の店の中には誰も見えない。少年の姿は膝の上まで。

          6

 綱を上ったり下りたりしている猿。猿は燕尾服の尾を垂れた上、シルク・ハットを仰向けにかぶっている。この綱や猿の後ろは深い暗のあるばかり。

          7

 この玩具屋のある仲店の片側。猿を見ていた少年は急に父親のいないことに気がつき、きょろきょろあたりを見まわしはじめる。それから向うに何か見つけ、その方へ一散に走って行く。

          8

 父親らしい男の後ろ姿。ただしこれも膝の上まで。少年はこの男に追いすがり、しっかりと外套の袖を捉える。驚いてふり返った男の顔は生憎田舎者らしい父親ではない。綺麗に口髭の手入れをした、都会人らしい紳士である。少年の顔に往来する失望や当惑に満ちた表情。紳士は少年を残したまま、さっさと向うへ行ってしまう。少年は遠い雷門を後ろにぼんやり一人佇んでいる。

          9

 もう一度父親らしい後ろ姿。ただし今度は上半身。少年はこの男に追いついて恐る恐るその顔を見上げる。彼等の向うには仁王門。

          10[#「10」は縦中横]

 この男の前を向いた顔。彼は、マスクに口を蔽った、人間よりも、動物に近い顔をしている。何か悪意の感ぜられる微笑。

          11[#「11」は縦中横]

 仲店の片側。少年はこの男を見送ったまま、途方に暮れたように佇んでいる。父親の姿はどちらを眺めても、生憎目にははいらないらしい。少年はちょっと考えた後、当どもなしに歩きはじめる。いずれも洋装をした少女が二人、彼をふり返ったのも知らないように。

          12[#「12」は縦中…

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