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中国怪奇小説集
ちゅうごくかいきしょうせつしゅう
副題13 輟耕録(明)
13 てっこうろく(みん)
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中国怪奇小説集」 光文社文庫、光文社
1994(平成6)年4月20日
入力者tatsuki
校正者小林繁雄
公開 / 更新2003-09-27 / 2014-09-18
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 第十一の男は語る。
「明代も元の後を亨けて、小説戯曲類は盛んに出て居ります。小説では西遊記、金瓶梅のたぐいは、どなたもよく御承知でございます。ほかにもそういう種類のものはたくさんありますが、わたくしは今晩の御趣意によりまして、陶宗儀の『輟耕録』を採ることにいたしました。陶宗儀は天台の人で、元の末期に乱を避けて華亭にかくれ、明朝になってから徴されても出でず、あるいは諸生に教授し、あるいは自ら耕して世を送りました。元来著述を好む人で、田畑へ耕作に出るときにも必ず筆や硯をたずさえて行って、暇があれば樹の下へ行って記録していたそうです。この書に輟耕の名があるのはそれがためでしょう。原名は『南村輟耕録』というのだそうですが、普通には単に『輟耕録』として伝わって居ります。この書は日本にも早く渡来したと見えまして、かの、『飛雲渡』や、『陰徳延寿』の話などは落語の材料にもなり、その他の話も江戸時代の小説類に飜案されているのがありまして、捜神記や酉陽雑爼に次いで、われわれ日本人にはお馴染みの深い作物でございます」

   飛雲渡

 飛雲渡は浪や風がおだやかでなくて、ややもすれば渡船の顛覆するところである。ここに一人の青年があって、いわゆる放縦不覊の生活を送っていたが、ある時その生年月日をもって易者に占ってもらうと、あなたの寿命は三十を越えないと教えられた。
 彼もさすがにそれを気に病んで、その後幾人の易者に見てもらったが、その占いはほとんど皆一様であったので、彼もしょせん短い命とあきらめて、妻を娶らず、商売をも努めず、家財をなげうって専ら義侠的の仕事に没頭していると、ある日のことである。彼がかの飛雲渡の渡し場付近を通りかかると、ひとりの若い女が泣きながらそこらをさまよっていて、やがて水に飛び込もうとしたのを見たので、彼はすぐに抱きとめた。
「お前さんはなぜ命を粗末にするのだ」
「わたくしは或る家に女中奉公をしている者でございます」と、女は答えた。「主人の家に婚礼がありまして、親類から珠の耳環を借りました。この耳環は銀三十錠の値いのある品だそうでございます。今日それを返して来るように言い付けられまして、わたくしがその使いにまいる途中で、どこへか落してしまいましたので……。今さら主人の家へも帰られず、いっそ死のうと覚悟をきめました」
 青年はここへ来る途中で、それと同じような品を拾ったのであった。そこでだんだんに訊いてみると確かにそれに相違ないと判ったが、先刻から余ほどの時間が過ぎているので、その帰りの遅いのを怪しまれては悪いと思って、彼はその女を主人の家へ連れて行って、委細のわけを話して引き渡した。主人は謝礼をするといったが、彼は断わって帰った。
 それから一年ほどの後、彼は二十八人の道連れと一緒に再びこの渡し場へ来かかると、途中で一人の女に出逢った。女はかの耳環を落した奉…

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