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瓶詰地獄
びんづめじごく
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作怪奇幻想傑作選 あやかしの鼓」 角川ホラー文庫、角川書店
1998(平成10)年4月10日
初出「猟奇」1928(昭和3)年10月
入力者林裕司
校正者浜野智
公開 / 更新1998-11-10 / 2014-09-17
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 拝呈 時下益々御清栄、奉奉慶賀候。陳者、予てより御通達の、潮流研究用と覚しき、赤封蝋附きの麦酒瓶、拾得次第届告仕る様、島民一般に申渡置候処、此程、本島南岸に、別小包の如き、樹脂封蝋附きの麦酒瓶が三個漂着致し居るを発見、届出申候。右は何れも約半里、乃至、一里余を隔てたる個所に、或は砂に埋もれ、又は岩の隙間に固く挟まれ居りたるものにて、よほど以前に漂着致したるものらしく、中味も、御高示の如き、官製端書とは相見えず、雑記帳の破片様のものらしく候為め、御下命の如き漂着の時日等の記入は不可能と被為存候。然れ共、尚何かの御参考と存じ、三個とも封瓶のまま、村費にて御送附申上候間、何卒御落手相願度、此段得貴意候 敬具
    月   日
××島村役場※[#丸印、U+329E、36-10]
 海洋研究所 御中

◇第一の瓶の内容
 ああ………この離れ島に、救いの船がとうとう来ました。
 大きな二本のエントツの舟から、ボートが二艘、荒波の上におろされました。舟の上から、それを見送っている人々の中にまじって、私たちのお父さまや、お母さまと思われる、なつかしいお姿が見えます。そうして……おお……私たちの方に向って、白いハンカチを振って下さるのが、ここからよくわかります。
 お父さまや、お母さまたちはきっと、私たちが一番はじめに出した、ビール瓶の手紙を御覧になって、助けに来て下すったに違いありませぬ。
 大きな船から真白い煙が出て、今助けに行くぞ……というように、高い高い笛の音が聞こえて来ました。その音が、この小さな島の中の、禽鳥や昆虫を一時に飛び立たせて、遠い海中に消えて行きました。
 けれども、それは、私たち二人にとって、最後の審判の日の[#挿絵]よりも怖ろしい響で御座いました。私たちの前で天と地が裂けて、神様のお眼の光りと、地獄の火焔が一時に閃めき出たように思われました。
 ああ。手が慄えて、心が倉皇て書かれませぬ。涙で眼が見えなくなります。
 私たち二人は、今から、あの大きな船の真正面に在る高い崖の上に登って、お父様や、お母様や、救いに来て下さる水夫さん達によく見えるように、シッカリと抱き合ったまま、深い淵の中に身を投げて死にます。そうしたら、いつも、あそこに泳いでいるフカが、間もなく、私たちを喰べてしまってくれるでしょう。そうして、あとには、この手紙を詰めたビール瓶が一本浮いているのを、ボートに乗っている人々が見つけて、拾い上げて下さるでしょう。
 ああ。お父様。お母様。すみません。すみません、すみません、すみません。私たちは初めから、あなた方の愛子でなかったと思って諦らめて下さいませ。
 又、せっかく、遠い故郷から、私たち二人を、わざわざ助けに来て下すった皆様の御親切に対しても、こんなことをする私たち二人はホントにホントに済みません。どうぞどうぞお赦し下さい。そうして、…

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