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先生への通信
せんせいへのつうしん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦随筆集 第一巻」 岩波文庫、岩波書店
1947(昭和22)年2月5日、1963(昭和38)年10月16日第28刷改版
初出「東京朝日」1910(明治43)年1月~1911(明治44)年5月
入力者田辺浩昭
校正者かとうかおり
公開 / 更新2003-07-14 / 2014-09-17
長さの目安約 24 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     ヴェニスから

 お寺の鳩に豆を買ってやることは日本に限ることと思っていましたがここのサンマルコのお寺の前でも同じことをやっています。ただし豆ではなくてとうもろこしを細長い円錐形の紙袋につめたのを売っています。
 大道で鍋を煮立たせて、ゆでだこを売っている男がいました。
 ヴェニスの町は朽ちよごれているが、それは美しく朽ちよごれているので壁のはがれたのも、ないしは窓からぶら下げたせんたく物までも、ことごとく言うに言われぬ美しくくすんだいい色彩を示しています。霜枯れ時だのに、美しい常磐木の緑と、青玉のような水の色とが古びた家の黄や赤や茶によくうつります。
 ゴンドラもおもしろく、貧しい女も美しく見えます。
(明治四十三年一月、東京朝日新聞)

     ローマから

 ローマへ来て累々たる廃墟の間を彷徨しています。きょうは市街を離れてアルバノの湖からロッカディパパのほうへ古い火山の跡を見に参りました。至るところの山腹にはオリーブの実が熟して、その下には羊の群れが遊んでいます。山路で、大原女のように頭の上へ枯れ枝と蝙蝠傘を一度に束ねたのを載っけて、靴下をあみながら歩いて来る女に会いました。角の長い牛に材木車を引かせて来るのもあれば、驢馬に炭俵を積んで来るのもありました。みかんの木もあれば竹もあります。目と髪の黒い女が水たまりのまわりに集まってせんたくをしているそばには鶏が群れ遊び、豚が路傍で鳴いています。バチカンも一部見ましたが、ここの名物はうまい物ばかりのようであります。
(明治四十三年二月、東京朝日新聞)

     ベルリンから(一)

 今ここのベルリイナア座で「タイフン」という芝居をやっています。作者はハンガリー人で、日本の留学生のことを仕組んだものだそうです。たいへん人気がいいそうであります。主人公の日本人の名がドクトル・タケラモ・ニトベというのだそうで、このタケラモだけでも行って見る気がしなくなります。人の話によるとなかなかよく日本人の特性をうがっていて、むしろ日本人の美点を表現しているそうですが、タケラモに恐れてまだ見ません。
(明治四十三年四月、東京朝日新聞)

     ベルリンから(二)

 今度の旅行中は天気の悪い日が多くて、ことにスイスでは雨や霧のためにアルプスの雪も見えず、割合につまりませんでした。それでもモンブランの氷河を見に行った日は天気がよくておもしろうございました。寒暖計を一本下げて気温を測ったりして歩きました。つるはしのような杖をさげて繩を肩にかついだ案内者が、英語でガイドはいらぬかと言うから、お前は英語を話すかときくと、いいえと言いました。すべらない用心に靴の上へ靴下をはいて、一人で氷河を渡りました。いい心持ちでした。氷河の向こう側はモーヴェ・パーという険路で、高山植物が山の間に花をつづり、ところどころに滝があり…

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