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狐物語
きつねものがたり
作品ID24373
著者林 芙美子
文字遣い旧字新仮名
底本 「童話集 狐物語」 國立書院
1947(昭和22)年10月25日
入力者林幸雄
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2005-06-10 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 四國のある山の中に、おもしろい狐がすんでいました。
 いつも、ひとりで歩くことがすきでしたが、ある雨の日、いつものように餌をあさってぼつぼつ歩いていますと、男の子が四五人、がやがや話しながら山を下っていました。
 狐は、時々人間をみたことがあったし、人間は二本の足で立って歩いているので、狐は珍らしくて仕方がないのです。狐のおかあさんは、「人間のところへ行くとひどいめにあうから、人間のところへぜったいに近づいてはいけませんよ。」と、いつもいうのですけれど、狐は、人間の姿がおかしくて仕方がなかったし、第一、ひょろひょろと、立って歩いているのがおかしくてしかたがないのです。狐は子供たちのうしろからそっとついて行きました。
「このへんは六兵衞狐の出るところだぞ。」
 一人の子供がいいました。
「晝間から出ることはないだろう。」
 また一人の子供がいいました。
「晝間でも雨が降っているから出るかもしれん。」
 また、もう一人の子供がいいました。
 時々、とおくで雷が鳴っています。
 子供たちは、何となく氣味がわるくなったのでしょう、歩いていた子供たちは、ふっと足をとめて耳をそばたてました。すると、一人の子供がふいに後をふりかえって、狐をみました。
「あッ、狐が出おったぞッ。」
 子供たちはびっくりして、まるで豆がはぜたようなすさまじい勢で、走って山を下りはじめました。
 狐もびっくりしました。どうしてあんなに子供達がさっと走って行ったのだろうと思いました。雨の降るなかを、狐もぬれながら、子供たちの後を追いかけてゆきました。
 細い山道をいくまがりもして、やっと、人間の通るらしい道の近くへ來ますと、山の田圃ぞいのところで、大きい牛がもうもうとないていました。
 狐は自分たちよりも大きい動物をみて、しばらくあきれて眺めていました。何て大きいのだろう……。お尻は箱のように四角くて、骨ばっていたし、たれさがった腹や脚が泥だらけです。そしておもしろいことには、大きい鼻の穴にまあるいかんをつけて太い紐がついていました。
 狐はおずおず牛の前へ行って、ていねいに頭をさげました。牛はびっくりして狐をみました。
「あなたはいったい、どなたさまですか。」
 と、狐がききました。
 牛は正直者でしたから、わたしは、桑助さんの家の牛で、赤兵衞というものだとこたえました。狐は王樣のようだと感心しました。
「そうですか、わたしは山の中から來た六兵衞という狐ですが、このさきへは行かれますか。」
 と、たずねてみました。
「ええ行かれますとも、道はどこまでもつづいていて、にぎやかな河口までつづいていますよ。」
 と、教えてくれました。
 狐はていねいにあいさつをして、雨の中を歩きました。しばらく行くと、小さい村がありました。村のとっつきの家では、鷄が三びきほど遊んでいました。狐は何も彼も珍らしくて…

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