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ベルリン大学
ベルリンだいがく
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦全集 第一巻」 岩波書店
1996(平成8)年12月5日
初出「輻射 第一号」東京帝国大学理学部学生、1935(昭和10)年5月
入力者Nana ohbe
校正者松永正敏
公開 / 更新2004-04-18 / 2016-02-25
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 一九〇九年五月十九日にベルリンの王立フリードリヒ・ウィルヘルム大学の哲学部学生として入学した人々の中に黄色い顔をした自分も交じっていた。厳かな入学宣誓式が行われて、自分も大勢の新入生の中にまき込まれて大講堂へ這入ったが、様子が分らないのでまごまごしていると、中に一人物馴れた日本人が居ていろいろ注意してくれて助かった。それは先年亡くなった左右田喜一郎博士であった。自分よりはずっと前にドイツへ来ていて他の大学からベルリンへ転学して来たそうで言葉なども自由らしかった。総長の演説があったが何を云っているか自分にはちっとも分らないので少々心細くなった。それから新入生一人一人に総長が握手をするというので、一列に並んで順々に繰出して行った。世話をやいている事務官らしいのが自分に向って何か言っているが、何を云ってるか分らない。左右田君に聞くと Wollen Sie dort anschliessen ? と云っただけなのだそうである。カール総長の握手の力の強いのにびっくりした。総長にでもなる人にはやはりそれだけの活力があるのかと思われた。
 入学証書と云ったような幅一尺五寸長二尺ほどの紙に大きな活字で皇帝や総長の名を黒々と印刷したものを貰ったが文句はラテン語で何の事か分らない、見ていると気の遠くなるようなものであった。日附の所に D. Berolini d. 19. mens. V anni MDCCCCIX とあって下に総長の署名がある。「ベルリン」までがラテン化しているのでまた少し驚いた。それからもう一枚哲学部長の署名のあるこれもラテン語の入学免状を貰った。
 式の前であったか後であったか忘れたが、大学の玄関をはいって右側の事務室でいろいろの入学手続をすませた。東京帝国大学の卒業証書も検閲のために差出したが、この日本文は事務の役人にとって自分の場合のラテン語以上に六かしそうであった。色々記入する書式の中の宗教という項に神道と書いたら、それはどういう宗教だと聞かれて困った。ドイツ語がよく分らなくては講義を聴くのに困りはしないかと聞くから、なにじきに上手になりますと答えたら Na ! Sehen Sie mal zu. と云ってにやにやした。最後の zu が妙にいつまでも耳に残って気になった。
 ベルリン着早々、中村気象台長からの紹介状をもってヘルマン教授を尋ね聴講科目などの指導を仰いだ。結局第一学期には、プランクの「物理学の全系統」ヘルマンの「気象器械の理論と用法」並びに「気象輪講」ルーベンスの「物理輪講」アドルフ・シュミットの「海洋学」「地球のエネルギーハウスハルト」「地球物理輪講」キービッツの「空中電気」ワールブルヒの「理論物理学特別講義」ペンクの「地理学輪講」という御膳立にきめた。
 ヘルマンの講義はシンケル・プラッツの気象台へ聴きに行った。王宮と河一つ隔てた広場…

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