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棄老伝説に就て
きろうでんせつについて
作品ID24456
著者南方 熊楠
文字遣い旧字旧仮名
底本 「土俗と傳説」 文武堂店
1918(大正7)年8月
入力者高柳典子
校正者多羅尾伴内
公開 / 更新2003-08-17 / 2014-09-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




誰も知つた信州姨捨山の話の外に伊豆にも棄老傳説があると云ふのは(郷土研究三の二四三)棄てられた老人には氣の毒だが、史乘に見えぬ古俗を研究する人々には有益だ。一九〇八年板ごむの「歴史としての民俗學」第一章などを見ると、今日開明に誇る歐羅巴人の多くの祖先も都々逸御順で、老は棄てられ壯きは殘る風俗で澄して居たらしい。吾邦固より無類の神國で、上代の民純朴だつたは知れ切つた事ながら、時世と範圍相應に今日から見ると、奇怪な習慣も隨分行はれたは大化の初年迄人死する時、人を絞して殉ぜしめ、信濃國で夫死すれば妻を殉ぜしめたなどで訣る。されば地方によつて老人を棄て風も有つたのだらう。昨年押上中將から惠贈せられた高原舊事に、「飛騨の吉野村の下に人落しと云ふ所あり。昔は六十二歳に限り此所へ棄てしと云ふ」とある。さて親を棄てに行つた子が、自分も其齡になれば棄てられると考へ付いての發意で、此事が止んだと云ふのは、漢の皇甫謐の孝子傳・萬葉集・今昔物語・ぐりんむの獨逸童話其他に多く見えて、歐亞諸邦に瀰漫した譚である。
(南方熊楠)



底本・初出:「土俗と傳説 第壹卷 第壹號」文武堂店
   1918(大正7)年8月
入力:高柳典子
校正:多羅尾伴内
2003年7月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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