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映画「マルガ」に現われた動物の闘争
えいが「マルガ」にあらわれたどうぶつのとうそう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦随筆集 第四巻」 岩波文庫、岩波書店
1948(昭和23)年5月15日、1963(昭和38)年5月16日第20刷改版
初出1933(昭和8)年3月(初出記載なし)
入力者(株)モモ
校正者かとうかおり
公開 / 更新2003-04-18 / 2014-09-17
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 映画「マルガ」の中でいちばんおもしろいと思ったのは猛獣大蛇などの闘争の場面である。
 闘争を仕組んだのは人間であろうが、闘争者のほうではほんとうに真剣な生命をかけた闘争をして見せるのであるから、おもしろくないわけには行かないのである。
 動物によってそれぞれに武器がちがい、従って闘争の手法がちがうのがおもしろい。虎や豹の闘法は比較的にいちばん人間に似ている。すなわち、かみつく、引っかく、振り飛ばすというのである。ところが、水牛となるとだいぶ人間とは流儀が違う。頭を低くたれて、あの大きな二本の角を振り舞わすところは、ちょっと薙刀でも使っているような趣がある。鋒先の後方へ向いた角では、ちょっと見るとぐあいが悪そうであるが、敵が自分の首筋をねらって来る場合にはかえってこのほうが有利であるかもしれない。
 鰐と虎とのけんかも変わっている。両方でかみ合ったままで、ぐるりぐるりと腹を返して体軸のまわりに回転する。鰐が虎をねじっているのか、虎が鰐をねじっているのか見たところではどっちだかわからない。しかし、あのぐるりぐるりと腹を返して引っくり返る無気味さは、やはり、虎よりも鰐の属性にふさわしく思われるものである。
 大蛇と鰐との闘争も珍しい見ものであるが、なにぶんにも水の飛沫がはげしくて一度見せられたくらいでは詳細な闘争方法が識別できにくいのが残念である。
 これに反して虎と大蛇との取り組みは実にあざやかである。蛇の闘法は人間にはちょっとまねができず、想像することもできない方法である。客観的認識はできても主観的にはリアライズすることはできない種類のものである。虎もだいぶ他の相手とは見当がちがうので閉口当惑のていである。蛇が虎のからだにじりじりと巻きつく速度が意外にのろい、それだけに無気味さが深刻である。蛇が蛇自身の目では見渡せないあの長いからだを、うまく舵を取って順序よく巻きついて行く手ぎわは見ものである。虎のほうでも徐々に胴のまわりに巻きつくのを、どう防御していいか見当がつかないので困るらしい。だんだんに締めつけられて、虎は息苦しそうにはあはあとあえぐのであるが、それでも少しもうろたえたような、弱ったような様子の見えないのはさすがにえらい。一声高く咆哮しておどり上がりおどり上がると、だだっ子の兵児帯がほどけるように大蛇の巻き線がゆるみほぐれてしまう。しかし、虎もさすがに、「これは少し相手が悪い」といったようなふうで、あっさりと見切りをつけて結局このけんかはもの別れになるらしい。蛇のほうはやはり受動的であって、こっちから追っかけて行って飽くまで勝負を迫るほどの執念はなさそうである。
 このような大蛇と虎の闘争が実際にしばしばジャングルの中で自然的に行なわれるか、どうか、少し疑わしく思われる。自然界に闘争の行なわれる場合は、どちらかがどちらかを倒して食ってしまうか、さなく…

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