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小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」
こいずみやくもひこうがほん「ようましわ」
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦全集 第十七巻」 岩波書店
1962(昭和37)年2月7日
初出「帝国大学新聞」1934(昭和9)年10月
入力者加藤恭子
校正者かとうかおり
公開 / 更新2003-03-22 / 2014-09-17
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 十余年前に小泉八雲の小品集「心」を読んだことがある。その中で今日までいちばん深い印象の残っているのはこの書の付録として巻末に加えられた「三つの民謡」のうちの「小栗判官のバラード」であった。日本人の中の特殊な一群の民族によっていつからとも知れず謡い伝えられたこの物語には、それ自身にすでにどことなくエキゾティックな雰囲気がつきまとっているのであるが、それがこの一風変わった西欧詩人の筆に写し出されたのを読んでみると実に不思議な夢の国の幻像を呼び出す呪文ででもあるように思われて来る。物語の背景は現にわれわれの住むこの日本のようであるが、またどこかしら日本を遠く離れた、しかし日本とは切っても切れない深い因縁でつながれた未知の国土であるような気もする。そうかと思うとどこかまたイギリスのノーザンバーランドへんの偏僻な片田舎の森や沼の間に生まれた夢物語であるような気もするのである。
 それからずっと後に同じ著者の「怪談」を読んだときもこれと全く同じような印象を受けたのであった。
 今度小山書店から出版された「妖魔詩話」の紹介を頼まれて、さて何か書こうとするときに、第一に思い出すのはこの前述の不思議な印象である。従って眼前の「妖魔詩話」が私に呼びかける呼び声もまたやはりこの漠然とした不思議な印象の霧の中から響いてくるのは自然の宿命である。
 八雲氏の夫人が古本屋から掘り出して来たという「狂歌百物語」の中から気に入った四十八首を英訳したのが「ゴブリン・ポエトリー」という題で既刊の著書中に採録されている。それの草稿が遺族の手もとにそのままに保存されていたのを同氏没後満三十年の今日記念のためにという心持ちでそっくりそれを複製して、これに原文のテキストと並行した小泉一雄氏の邦文解説を加えさらに装幀の意匠を凝らしてきわめて異彩ある限定版として刊行したものだそうである。
 なんといってもこの本でいちばんおもしろいものはやはりこの原稿の複製写真である。オリジナルは児童用の粗末な藁紙ノートブックに当時丸善で売っていた舶来の青黒インキで書いたものだそうであるが、それが変色してセピアがかった墨色になっている。その原稿と色や感じのよく似た雁皮鳥の子紙に印刷したものを一枚一枚左側ページに貼付してその下に邦文解説があり、反対の右側ページには英文テキストが印刷してある。
 書物の大きさは三二×四三・五センチメートルで、用紙は一枚漉きの純白の鳥の子らしい。表紙は八雲氏が愛用していた蒲団地から取ったものだそうで、紺地に白く石燈籠と萩と飛雁の絵を飛白染めで散らした中に、大形の井の字がすりが白くきわ立って織り出されている。
 これもいかにも八雲氏の熱愛した固有日本の夢を象徴するもののように見えておもしろい。このような蒲団地は、今日ではもうたぶんデパートはもちろんどこの呉服屋にも見つからないであろう。それをわざ…

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