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十二支考
じゅうにしこう
副題05 馬に関する民俗と伝説
05 うまにかんするみんぞくとでんせつ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「十二支考(上)〔全2冊〕」 岩波文庫、岩波書店
1994(平成6)年1月17日
初出馬に関する民俗と伝説「太陽 二四ノ一 二四ノ二 二四ノ四 二四ノ五 二四ノ七 二四ノ一一 二四ノ一四」博文館、1918(大正7)年1月、2月、4月、5月、6月、9月、12月<br>(付)白馬節会について「人類学雜誌 28巻3号」1912(明治45)年3月
入力者小林繁雄
校正者かとうかおり
公開 / 更新2006-03-20 / 2016-05-23
長さの目安約 184 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     伝説一

 隙行く駒の足早くて午の歳を迎うる今日明日となった。誠や十二支に配られた動物輩いずれ優劣あるべきでないが、附き添うた伝説の多寡に著しい逕庭あり。たとえば羊は今まで日本に多からぬもの故和製の羊譚はほとんど聞かず。猴の話は東洋に少なからねど、欧州に産せぬから彼方の古伝が乏しい。これに反し馬はアジアと欧州の原産、その弟ともいうべき驢はアフリカが本元で、それから世界中大抵の処へ弘まったに因って、その話は算うるに勝えぬほどあるが、馬を題に作った初唄唱う芸妓や、春駒を舞わせて来る物貰い同然、全国新聞雑誌の新年号が馬の話で読者を飽かすはず故、あり触れた和漢の故事を述べてまたその話かと言わるるを虞れ、唐訳の律蔵より尤も目出たい智馬の譚を約説して祝辞に代え、それから意馬の奔るに任せ、意い付き次第に雑言するとしよう。智馬の譚は現存パーリ文の『仏本生譚』にも見えるが、唐訳律中のほど面白からぬようだ。
『根本説一切有部毘奈耶』にいわく、昔北方の販馬商客五百馬を駆って中天竺へ往く途上、一の牝馬が智馬の種を姙んだ。その日より他馬皆鳴かぬから病み付いた事と思いおった。さていよいよ駒を生んでより馬ども耳を垂れて嚏噫にも声せず、商主かの牝馬飛んだものを生んでわが群馬を煩わすと悪む事大方ならず、毎もこれに乗り好き食物を与えず。南に行きて中国境の一村に至ると夏雨の時節となった。雨を冒して旅すれば馬を害すればとて、その間滞留する内、村の人々各の手作りの奇物を彼に贈ったので、雨候過ぎて出立しようという時見送りに来た村人に、前日くれた品に応じてそれぞれ物を与えた。これは熊楠も旅行中しばしば経験ある事で、入りもせぬ物を多く持ち来てくれるは至って親切なようだが、その実盗人の昼寝で宛込があるので、誠に返礼の心配が尋常でない。ところがその村に瓦師あり、先に瓦器を商主に贈った。今彼去らんとすと聞き、その婦これに告いて、君も見送りに往って礼物を貰うがよい、上げたのはわずかの物だが先方は憶え居るだろといった。瓦師そこで泥を円めて吉祥印を作り、持ち行きて商主に訣れると、何故遅く来たか、荷物は皆去ってしまった、気は心というから、何か上げたいものと考えた末、かの新たに生まれた駒こそ災難の本なれ、これがよいと気付きこれでも将ち去かんかと問うた。瓦師どう仕りまして、それを私方へ将れ往いたら瓦器が残らず踏み砕かれましょうと辞む。爾時かの駒跪いて瓦師の双足を舐ったので可愛くなり受け取って牽き帰ると、自分の商売に敵するものを貰うて来たとてその妻小言を吐く事夥し。それを聞いて駒また妻の双足を舐り跪くと妻も可愛く思う。駒は起ちてあるいは固まりあるいはいまだ固まらぬ諸多の瓦器の間を行き旋るに一つも損ぜず。珍しく気の付いた駒と妻が感じ居る。この時瓦師土を取りに出ると駒随い行き、その土を袋に満ててしまうを見て背を低くす。…

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