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十二支考
じゅうにしこう
副題06 羊に関する民俗と伝説
06 ひつじにかんするみんぞくとでんせつ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「十二支考(下)〔全2冊〕」 岩波文庫、岩波書店
1994(平成6)年1月17日
初出「太陽 二五ノ一」博文館、1919(大正8)年1月
入力者小林繁雄
校正者門田裕志、仙酔ゑびす
公開 / 更新2009-04-16 / 2016-05-23
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

「張り交ぜの屏風ひつじの五目飯」てふ川柳がある。この米高また紙高の時節に羊に関する雑談などを筆するは真に張り交ぜ屏風を造って羊に食わすほど紙潰しな業と思えど、既に六、七年続き来った『太陽』の十二獣談を今更中絶も如何と、流行感冒の病み上りでふらつく頭脳で思い付き次第に書き出す。

 既に米高と言ったから、米高がかった話より初めよう。昔スウェーデン大凶年で饑飢免るべからずと知れた時、国民会議してすべての老人と病人を殺し、せめては少壮者を全く存せんと決したが、国王かかる残虐を行うに忍びず、念のために神慮を伺うた。神託宣していわく、もしこの国に年若く姿貌端正にして智慮に富み、足で歩まず、馬に騎らず、車に乗らず、日中でなく、夜中でなく、月の前半でも後半でもなく、衣を著ず、また裸にもあらず、かくてシグツナの王宮に詣り得る美なる素女あらば、その女こそ目前差し迫った大禍難を無事に避くべき妙計を出し得べけれと。
 爾時ヴェンガイン村に一素女あり、ジサと名づく、貞操堅固、儀容挺特、挙世無双だった。数千の無辜の民を助けたさに左思右考して神託通りにこの難題を見事遣って退けた。
 ジサ女、年中何の月にも属せず、太陽天に停まって動かぬと信ぜらるる日を択び、身に罟を被ったのみ故、裸とも著衣とも言えぬ。それから一足を橇に、一足を山羊の背に載せて走らせ、満月の昏時、明とも暗とも付かぬうちに王宮に到った。王大いに悦び救済の法を諮うと、ジサそれは容易な事、国内に荒野が多い、それへ人民の一部分を移して開墾しなさいと勧め、王これに従って見事に凶難を免れた。この王も年若くて美男だったから、相談たちまち調ってジサを娶り挙国極めて歓呼した。古スウェーデン三大祭の一たるジサ祭はこの記念のために始められたので、かの国キリスト教に化した後も、毎年二月初めの日曜にこれを祝うて今に絶えぬと、ロイドの『瑞典小農生活』に出づ。
 山羊はスウェーデンで魔の乗物と信ぜらるれど、昔は雷神トールの車牽きとされた(グリンムの『独逸鬼神誌』二板六三二頁)。ジサ、本名ゴア、原農産物を護る女神という。惟うにこれまた山羊を使い物としたから右様の話が出来たのであろう。
 英国の俚諺に、三月は獅子のように来り、子羊のごとく去るというは、初め厳しく冷ゆるが、末には温かになるを指す。しかるに国に随っては、ちょうどわが邦上方で奈良の水取といって春の初めにかえって冷ゆるごとく、暖気一たび到ってまた急に寒くなる事あり。仏国の東南部でこれを老女の次団太と呼ぶ。俗伝に二月の終り三日と、三月の始め三日はほとんど毎年必ず寒気が復って烈しい。その訳は昔老婆あって綿羊を飼う。二月の末殊に温かなるに遇い「二月よさようなら、汝は霜もてわが羊を殺し能わなんだ」と嘲った。二月、怒るまい事か三月から初め三日を借り、自分に残った末の三日と併せて六日間強く霜を降らせてことごと…

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