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怪談牡丹灯籠
かいだんぼたんどうろう
作品ID2577
副題04 怪談牡丹灯籠
04 かいだんぼたんどうろう
著者三遊亭 円朝
文字遣い新字新仮名
底本 「圓朝全集 巻の二」 近代文芸資料複刻叢書、世界文庫
1963(昭和38)年7月10日
入力者小林繁雄
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2010-03-24 / 2014-09-21
長さの目安約 248 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

        一

 寛宝三年の四月十一日、まだ東京を江戸と申しました頃、湯島天神の社にて聖徳太子の御祭礼を致しまして、その時大層参詣の人が出て群集雑沓を極めました。こゝに本郷三丁目に藤村屋新兵衞という刀屋がございまして、その店先には良い代物が列べてある所を、通りかゝりました一人のお侍は、年の頃二十一二とも覚しく、色あくまでも白く、眉毛秀で、目元きりゝっとして少し癇癪持と見え、鬢の毛をぐうっと吊り上げて結わせ、立派なお羽織に結構なお袴を着け、雪駄を穿いて前に立ち、背後に浅葱の法被に梵天帯を締め、真鍮巻の木刀を差したる中間が附添い、此の藤新の店先へ立寄って腰を掛け、列べてある刀を眺めて。
侍「亭主や、其処の黒糸だか紺糸だか知れんが、あの黒い色の刀柄に南蛮鉄の鍔が附いた刀は誠に善さそうな品だな、ちょっとお見せ」
亭「へい/\、こりゃお茶を差上げな、今日は天神の御祭礼で大層に人が出ましたから、定めし往来は埃で嘸お困りあそばしましたろう」
 と刀の塵を払いつゝ、
亭「これは少々装飾が破れて居りまする」
侍「成程少し破れて居るな」
亭「へい中身は随分お用になりまする、へいお差料になされてもお間に合いまする、お中身もお性も慥にお堅い品でございまして」
 と云いながら、
亭「へい御覧遊ばしませ」
 と差出すを、侍は手に取って見ましたが、旧時にはよくお侍様が刀を買す時は、刀屋の店先で引抜いて見て入らっしゃいましたが、あれは危いことで、若しお侍が気でも違いまして抜身を振[#挿絵]されたら、本当に危険ではありませんか。今此のお侍も本当に刀を鑒るお方ですから、先ず中身の反り工合から焼曇の有り無しより、差表差裏、鋩尖何や彼や吟味致しまするは、流石にお旗下の殿様の事ゆえ、通常の者とは違います。
侍「とんだ良さそうな物、拙者の鑑定する処では備前物のように思われるが何うじゃな」
亭「へい良いお鑑定で入っしゃいまするな、恐入りました、仰せの通り私共仲間の者も天正助定であろうとの評判でございますが、惜しい事には何分無銘にて残念でございます」
侍「御亭主やこれはどの位するな」
亭「へい、有難う存じます、お掛値は申上げませんが、只今も申します通り銘さえございますれば多分の価値もございますが、無銘の所で金拾枚でございます」
侍「なに拾両とか、些と高いようだな、七枚半には負らんかえ」
亭「どう致しまして何分それでは損が参りましてへい、なか/\もちましてへい」
 と頻りに侍と亭主と刀の値段の掛引をいたして居りますと、背後の方で通り掛りの酔漢が、此の侍の中間を捕えて、
「やい何をしやアがる」
 と云いながらひょろ/\と踉けてハタと臀餅を搗き、漸く起き上って額で睨み、いきなり拳骨を振い丁々と打たれて、中間は酒の科と堪忍して逆らわず、大地に手を突き首を下げて、頻りに詫びても、酔漢は耳にも懸けず猛り狂って、…

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