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支那人の妥協性と猜疑心
しなじんのだきょうせいとさいぎしん
作品ID2588
著者桑原 隲蔵
文字遣い旧字旧仮名
底本 「桑原隲藏全集 第一卷 東洋史説苑」 岩波書店
1968(昭和43)年2月13日
入力者はまなかひとし
校正者染川隆俊
公開 / 更新2002-02-25 / 2014-09-17
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

         緒言

 日本と支那とは、いはゆる唇齒輔車相倚るべき國で、勿論親善の間柄でなければならぬ。兩國の親善を圖る爲には、兩國人が互にその相手の氣質を理會して置く事が、一番必要と思ふ。吾が輩はかかる見地から、歴史的に支那人の氣質を多少研究しかけて居る。茲に掲ぐる支那人の妥協性と猜忌心に關する論文も、實はその研究の一端である。既に六十年以前に、ロンドンタイムスの支那通信員クックが切言した如く、種々の原因があつて、支那人の氣質を正しく理會することは、容易の業でない。從つて吾が輩の支那人氣質に對する見解も亦、或は正鵠を失した所あるかも知れぬ。この點は豫め讀者諸君の承知を得置きたい。

         一 支那人の妥協性(一)

 支那人は尤も妥協性に富んで居る。妥協は確に支那人の一つの國民性と申して差支へない。個人としても國家としても、支那人はよく妥協を行ふ。元來が文弱で、殊に打算に長ずる支那人は、小にしては爭鬪、大にしては戰爭、何れも危險の割合に、利益が伴はぬ事を夙に承知し、成るべく之を避けて妥協を好む譯である。兔に角支那人は大抵の場合よく妥協を行ひ、寧ろ極端まで妥協を濫用する傾向をもつて居ると思ふ。
 北支那に標([#挿絵]とも書く)局と稱して、旅行者の安全を保障する營業者がある。標とはもと擲槍の如き一種の武器の名で、この武器を携帶せる標師を派出して、依頼を受けた旅行者を護衞するから、標局といふ名稱が出來たと云ふ。北支那一帶、殊に山東地方の古への梁山泊の所在地に當る方面には、なかなか追剥が多い。一家を擧げて、甚だしきは一村一郷を擧げて、行旅を剽掠することを生業とする者が尠くない。かかる物騷な地方を通行する旅客は、標局に就いて一定の保險料を納めると、標局から標車といふ一種の保險馬車を出して旅客を護送する。この標車には幟標が建ててあつて、之には例の追剥も手出をせぬ。これは標師を憚るよりも、標局から豫め追剥一同に對して附屆を行ひ、雙方の間に妥協默契が成立して居る故である。
 支那人は物質の賣買にはよく秤を使用する。葱でも白菜でも、米穀でも豆腐でも、目方で賣買する。所が支那では度量衡の規定など[#挿絵]行されて居らぬから、彼等の使用する秤ほど不信用なものはない。南斗北秤とて、南支那と北支那の間で量衡に相違あるが、同一の北支那でも、秤は區々で一定して居らぬ。かかる不信用なる秤によつて、如何にして物貨を賣買するかといふに、賣手は成るべく自分に都合のよい秤を持ち出し、買手も亦成るべく自分に都合のよい秤を持ち出し、雙方の秤を折衷して目方を決める。かかる妥協方法は、吾が輩の北支那滯在中、屡[#挿絵]親覩した所である。
 昨年初夏支那に例の排日運動が始つて以來、親日派の政治家は賣國奴として、排日團體から種々の迫害を受けたが、中にも親日派四人男の一人として知られて居る、…

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