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断層顔
だんそうがん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第13巻 少年探偵長」 三一書房
1992(平成4)年2月29日
初出「探偵よみもの」1947(昭和22)年10月号
入力者tatsuki
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2005-07-08 / 2014-09-18
長さの目安約 33 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

   事件依頼人


 昭和五十二年の冬十二月十二日は、雪と共に夜が明けた。
 老探偵帆村荘六は、いつものように地上室の寝床の上に目をさました。
 美人の人造人間のカユミ助手が定刻を告げて起こしに来たからである。
「――そして先生。今日は人工肺臓をおとりかえになる日でございます。もうその用意がとなりの部屋に出来ています」
 カユミは、そういって、本日の特別の了知事項を告げた。
 老探偵はむっくり起上った。すっかり白くなった長髪をうしろへかきあげながら、壁にかかっている鏡の前に立った。
 血色はいい。皮膚からは血がしたたりそうであった。
 探偵は片手をのばして、鏡の隅についている釦を押した。
 するとその瞬間に、鏡の中の彼の姿は消え、そのかわりに曲線図があらわれた。
 その上には七つの曲線が入り交っていた。そして、十二月十二日の横座標の上に七つの新しい点が見ている前で加えられたが、それは光るスポットで表示された。――その七つの曲線は、彼の健康を評価する七つの条件を示していた。脈搏の数と正常さ、呼吸数、体温、血圧、その他いくつかの反応だった。鏡の前に立てば、ほとんど瞬間にこれらのものが測定され、そしてスポットとして健康曲線上に表示される仕掛になっていた。
「ふうん、今朝はこのごろのうちで一番調子がよくないて。そろそろ心臓も人工のものにとりかえたが、いいのかな」
 ――いや、こんなことを一々書きつらねて、彼の昭和五十二年における生活ぶりを説明して行くのは煩わしすぎる。あとはもうなるべく書かないことにしよう。特別の場合の外は……。
 帆村が、人工肺臓もとりかえ、朝の水浴びをし、それから食事をすませて、あとは故郷の山でつんだ番茶を入れた大きな湯呑をそばにおいて、ラジオのニュース放送の抜萃を聞き入っているとき、カユミ助手が入って来て、来客のあるのを告げた。そしてテレビジョンのスイッチをひねった。
 映写幕の上に、等身大の婦人の映像があらわれた。
 ハンカチーフで顔の下半分を隠している。その上から覗いている両眼に、きつい恐怖の色があった。
 服装は、頭に原子防弾のヘルメットを、ルビー玉の首飾、そしてカナダ栗鼠の長いオーバー、足に防弾靴を長くはいている。一メートルばかりの金属光沢をもった短いステッキを、防弾手袋をはめた片手に持っている。
 要するに、事件にまきこまれて戦慄している若い女が訪れたのだ。特に教養があるというわけでもなく、さりとてうすっぺらな女でもなさそうだ。
 老探偵は、その女客を迎えて、応接間に招じ入れた。
 女は毛皮のオーバーを脱いだ。その下から真黄色なドレスがあらわれた。黄色いドレスと紅いルビーの首飾と蒼ざめた女の顔とが、ロマンのすべてを語っているように思った。探偵は、自分の脳髄の中のすべての継電器に油をさし終った。
「どうぞお気に召すままに……。で、どん…

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