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樹木とその葉
じゅもくとそのは
副題15 空想と願望
15 くうそうとがんぼう
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「若山牧水全集 第七卷」 雄鷄社
1958(昭和33)年11月30日
入力者柴武志
校正者浅原庸子
公開 / 更新2001-05-25 / 2014-09-17
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




噴火口のあとともいふべき、山のいただきの、さまで大きからぬ湖。
あたり圍む鬱蒼たる森。
森と湖との間ほぼ一町あまり、ゆるやかなる傾斜となり、青篠密生す。
青篠の盡くるところ、幅三四間、白くこまかき砂地となり、渚に及ぶ。
その砂地に一人寢の天幕を立てて暫く暮し度い。
ペンとノートと、
愛好する書籍。
堅牢なる釣洋燈、
精良な飮料、食料。
石楠木咲き、
郭公、啼く。

誰一人知人に會はないで
ふところの心配なしに、
東京中の街から街を歩き、
うまいといふものを飮み、且つ食つて[#挿絵]り度い。

遠く望む噴火山のいただきのかすかな煙のやうに、
腹這つて覗く噴火口の底のうなりの樣に、
そして、千年も萬年も呼吸を續ける歌が詠み度い。

遠く、遠く突き出た岬のはな、
右も、左も、まん前もすべて浪、浪、
僅かに自分のしりへに陸が續く。
そんなところに、いつまでも、立つてゐたい。

いつでも立ち上つて手を洗へるやう、
手近なところに清水を引いた、
書齋が造り度い。

咲き、散り、
咲き、散る
とりどりの花のすがたを、
まばたきもせずに見てゐたい。
萌えては枯れ、
枯れては落つる、
落葉樹の葉のすがたをも、
また。

山と山とが相迫り、
迫り迫つて
其處にかすかな水が生れる。
岩には苔、
苔には花、
花から花の下を、
傳ひ、滴り、
やがては相寄つて
岩のはなから落つる
一すぢの絲のやうな
まつしろな瀧を、
ひねもす見て暮し度い。

いつでも、
ほほゑみを、
眼に、
こころに、
やどしてゐたい。

自分のうしろ姿が、
いつでも見えてるやうに
生き度い。

窓といふ
窓をあけ放つても、
蚊や
蟲の
入つて來ない、
夏はないかなア。

日本國中の
港といふ港に、
泊まつて歩き度い。

死火山、
活火山、
火山から
火山の、
裾野から、
裾野を
天幕を擔いで、
寢て歩きたい。

日本國中にある
樹のすがたと、
その名を、
知りたい。

おもふ時に、
おもふものが、
飮みたい。

欲しい時に、
燐寸よ、
あつて呉れ。

煙草の味が、
いつでも
うまくて呉れ。

或る時に
可愛いいやうに、
妻と
子が、
可愛いいと
いい。

おもふ時に
降り
おもふ時に
晴れて呉れ。

眼が覺めたら
枕もとに、
かならず
新聞が
來てるといい。

庭の畑の
野菜に、
どうか、
蟲よ、
附かんで呉れ。

麥酒が
いつも、
冷えてると、
いい。



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