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怪星ガン
かいせいガン
作品ID2638
著者海野 十三
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第13巻 少年探偵長」 三一書房
1992(平成4)年2月29日
入力者tatsuki
校正者原田頌子
公開 / 更新2001-07-21 / 2014-09-17
長さの目安約 232 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   臨時放送だ!


「テレ・ラジオの臨時ニュース放送ですよ、おじさん」
 矢木三根夫は、伯父の書斎の扉をたたいて、伯父の注意をうながした。
 いましがた三根夫少年は、ひとりで事務室にいた。そしてニュースの切りぬきを整理していたのだ。すると、とつぜんあの急調子の予告音楽を耳にしたのだ。
(あッ、臨時放送がはじまる。何ごとだろうか)と、三根夫は椅子からとびあがって、テレ・ラジオのほうを見た。その予告音楽は、そこから流れでていたし、またその上の映写幕には目にうったえて臨時放送のやがてはじまるのを、赤と藍とのだんだら渦巻でもって知らせていた。
 テレ・ラジオというのは、ラジオ受信機とテレビジョン受影機がいっしょになっている器械のことだ。みなさんはすでに知っておられることと思うが。……
(臨時放送は、まもなくはじまる。そうだ、すぐおじさんに知らせておかなくては。……あとで「なぜそんな重大なことをおしえなかったのか」などといって目をむくおじさんだから、知らせておいたほうがいい)
 三根夫は、事務室をとびだすと、廊下を全速力で走って、いまものべたように、伯父の書斎までかけつけると、扉をどんどんたたいたのである。
 なかから、大人の声が聞こえた。
「臨時ニュースの放送か。よしわかった。……鍵はかかっていないよ。こっちへはいってミネ君も聞くがいい」
 伯父は三根夫のことを、いつもミネ君と呼んでいる。探偵を仕事としている伯父のことだから、なかなか気むずかしいこともあるが、ほんとはやさしい伯父なのである。
 三根夫は扉をあけて、書斎にはいった。
 伯父の帆村荘六は、寝衣のうえにガウンをひっかけたままで、暗号解読器をしきりにまわして目を光らせていた。このようすから察すると、伯父は夜中にとび起きて、なにかの暗号をときにかかったまま、朝をむかえたものらしい。
 伯父の頭髪はくしゃくしゃで、長い毛がひたいにぶらさがって目をふさぎそうだ。卵形をしたりっぱな伯父の顔は、たいへん色が悪く目ははれぼったい。三根夫は伯父に同情し、そしてまた仕事に熱心すぎる伯父の健康についてしんぱいになった。三根夫がはいっていっても、伯父はちらりと、ひと目だけ甥を見ただけで、あとはふりむいても見ず、声をかけようともせず、ますますいそがしそうに暗号解読器をまわしつづけているのだった。
 そのとき、臨時放送がはじまった。
 アナウンサー田村君の声が、いつになくきんきんとするどく響く。――
「お待たせしました。臨時ニュースを申しあげます――」
 すみの三角棚のうえにおいてあるテレ・ラジオがしゃべりだす。その器械のまん中にはまっている映写幕には、アナウンサー田村君のきんちょうした顔がうつっている。
「――地球連合通信。九時五分発表。
 サミユル博士以下六十名の搭乗しております宇宙艇『宇宙の女王』号が遭難したもようであり…

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