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ざしき童子のはなし
ざしきぼっこのはなし
作品ID2656
著者宮沢 賢治
文字遣い新字新仮名
底本 「セロ弾きのゴーシュ」 角川文庫、角川書店
1957(昭和32)年11月15日、1967(昭和42)年4月5日10版
初出「月曜」1926(大正15)年2月号
入力者土屋隆
校正者田中敬三
公開 / 更新2008-05-03 / 2014-09-21
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ぼくらの方の、ざしき童子のはなしです。

 あかるいひるま、みんなが山へはたらきに出て、こどもがふたり、庭であそんでおりました。大きな家にだれもおりませんでしたから、そこらはしんとしています。
 ところが家の、どこかのざしきで、ざわっざわっと箒の音がしたのです。
 ふたりのこどもは、おたがい肩にしっかりと手を組みあって、こっそり行ってみましたが、どのざしきにもたれもいず、刀の箱もひっそりとして、かきねの檜が、いよいよ青く見えるきり、たれもどこにもいませんでした。
 ざわっざわっと箒の音がきこえます。
 とおくの百舌の声なのか、北上川の瀬の音か、どこかで豆を箕にかけるのか、ふたりでいろいろ考えながら、だまって聴いてみましたが、やっぱりどれでもないようでした。
 たしかにどこかで、ざわっざわっと箒の音がきこえたのです。
 も一どこっそり、ざしきをのぞいてみましたが、どのざしきにもたれもいず、ただお日さまの光ばかりそこらいちめん、あかるく降っておりました。
 こんなのがざしき童子です。

「大道めぐり、大道めぐり」
 一生けん命、こう叫びながら、ちょうど十人の子供らが、両手をつないでまるくなり、ぐるぐるぐるぐる座敷のなかをまわっていました。どの子もみんな、そのうちのお振舞によばれて来たのです。
 ぐるぐるぐるぐる、まわってあそんでおりました。
 そしたらいつか、十一人になりました。
 ひとりも知らない顔がなく、ひとりもおんなじ顔がなく、それでもやっぱり、どう数えても十一人だけおりました。そのふえた一人がざしきぼっこなのだぞと、大人が出て来て言いました。
 けれどもたれがふえたのか、とにかくみんな、自分だけは、どうしてもざしきぼっこでないと、一生けん命眼を張って、きちんとすわっておりました。
 こんなのがざしきぼっこです。

 それからまたこういうのです。
 ある大きな本家では、いつも旧の八月のはじめに、如来さまのおまつりで分家の子供らをよぶのでしたが、ある年その一人の子が、はしかにかかってやすんでいました。
「如来さんの祭りへ行きたい。如来さんの祭りへ行きたい」と、その子は寝ていて、毎日毎日言いました。
「祭り延ばすから早くよくなれ」本家のおばあさんが見舞いに行って、その子の頭をなでて言いました。
 その子は九月によくなりました。
 そこでみんなはよばれました。ところがほかの子供らは、いままで祭りを延ばされたり、鉛の兎を見舞いにとられたりしたので、なんともおもしろくなくてたまりませんでした。
「あいつのためにひどいめにあった。もう今日は来ても、どうしたってあそばないぞ」と約束しました。
「おお、来たぞ、来たぞ」みんながざしきであそんでいたとき、にわかに一人が叫びました。
「ようし、かくれろ」みんなは次の、小さなざしきへかけ込みました。
 そしたらどうです。そのざ…

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